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約束と契約  作者: オボロ
106/114

#106 ひらめき



「必ず、また来てくださいね。」

「待っていますからね。よろしくお願いしますね。」



マリアと凪は、泣く泣くマリアが帰ることを承知したバーナードとクレアに見送られ、迎えに来たトールと一緒にバーナード家を後にした。

詳しい事情を知らないバーナードとクレアには、辛い思いをさせてしまうと思いながらも、マリアにもやらなければならないことがあるので、情に流されるわけにはいかなかった。


「夏休みになったら、必ず来ます。」


マリアは、この言葉を繰り返すしかなかった。



トールは何も聞かなかった。

マリアと凪が居なかった間のグレース家の様子も話さなかった。

しかし、寂しく思ってくれていたことは、なんとなくだが伝わって来た。

トールは、運転をしながら、たわいない話を、ずっと笑顔でしていた。


「おかえりなさい、マリア、凪。」

「おかえり、マリア。おかえり、凪。」

「マリアも凪も、おかえりなさい。」


家に着くと、朔乃とクリスとアルフが、揃ってマリアと凪の帰りを待っていた。


「どんなおうちだった?」

「ジェシカちゃん、可愛かった?」

「ジェシカちゃんのパパとママ、優しかった?」

「今日の夕食はね、マリアの好きなモノばっかりなんだよ。」


アルフは、ずっとマリアにくっついて歩いていたし、夕食は、マリアの好きなモノばっかりらしい。


「レポート書くんでしょ?手伝うよ。」


クリスは自ら手伝いを名乗り出てくれた。


朔乃は、ニコラス学園に、マリアの欠席を二週間から三週間に変更してもらっていた。

だが、思っていたよりも早く帰って来たので、再度、学園に連絡をし、三日後に登校することが決まった。

マリアは、それまでにレポートを書かなければならない。

クリスの手伝いは心強かった。




「夏休みに、またジェシカちゃんの所へ行くことになっているの。」


マリアは、夕食の後の家族団欒のたわいない会話の中、唐突に切り出した。

みんながみんな、何があって、どうなったのか、知りたいと思っているはずなのに、なぜか聞くことを躊躇っているように感じていた。

聞きたいのに聞けなくて、どうでもいい話ばかりをしているように思えて仕方なかった。


マリアが突然に話を始めると、それまで、仕事先で見かけた犬の話をしていたトールは、ピタリと話をめて、マリアを見た。

トールの話を聞きながら笑っていた朔乃も、クリスも、アルフも、急に真顔になって、マリアを見た。


「前に、使い魔の1人に、わたしはいつもお願いばかりだって言われていて……。だから、今回は、こっちのお願いを聞いてもらう代わりに、B・Bの望みを叶えるつもりなの。」


「悪魔の望みを叶えるの?」


クリスが、恐ろし気に質問をした。

確かに、悪魔が望むことなど、ろくでもないことだと思うだろう。

マリアは答えた。


「B・Bは最初から悪魔だったわけじゃなくて、昔は天使だったの。天使だった時、間違っていないと思って望んだことが原因で、堕天使になってしまったと、B・Bは言っていたわ。わたしは、その時にB・Bが望んだことを叶えてあげたいと思ってる。」


「彼は何を望んでいたの?」


朔乃が聞いた。


「人間と深く関わり、日々、寄り添い、慈しみながら生きて行くこと。その方法を探して、夏休みに会いに行く。それで、契約を破棄してもらうつもり。でも、その方法に全く見当が付かなくて……。何か、良い案があったら、教えて欲しいの。」


マリアは言った。

案の定、トールも朔乃もクリスも、驚いていた。

アルフには、少し難しかったようで、アルフは首を傾げている。


「どういう意味?」

「人間と、いつも一緒に居て、ずっと仲良くしたいんだって。」

「ふーん。」


クリスがした説明に対しても、アルフは驚くでもなく、すんなりと受け入れ、方法を考えていた。

そして、ハッと閃き、笑顔で言った。


「人間と仲良くなりたいんだったら、人間が喜ぶことをすればいいと思うよ。」

「人間が喜ぶことを、悪魔が進んでするかなぁ。」


トールは苦笑いをした。


「人間が喜ぶことって、例えばなんだと思う?」


朔乃は聞いた。


「困っている人が居たら、助けてあげるの。転んだ人が居たら、大丈夫ですか?って、声を掛けたり、落としたものを一緒に拾ってあげたり。ね?喜ぶでしょ?」


アルフは、とびっきりの笑顔を、マリアに向けた。

マリアは思った。


それが出来たなら、B・Bはもう悪魔ではない。

しかし、それをしなければ、人間と共存するのは難しい。

せめて、B・Bが危険ではないことを、示す必要があるだろう。

悪魔が危険ではないことを示す方法とは、何だろう?


「………っ!」


マリアはハッとした。

御弥之様の言葉を思い出した。


『———彼には、もう本当に、ほんのわずかな良心も残っていないと、思いますか?彼は、本当に人を殺したいと思い、殺しているのでしょうか?———』


そうだ!

良い心があることを知ってもらえばいい!

B・Bにも、きっと良い心はあるはず。

ほんの少しでも良い心があれば、それを知ってもらう方法はきっとある。

そして、良い心を、少しずつでも大きくすることが出来たなら……


「凪!天使が悪魔になるなら、悪魔が天使になることもあると思わない?善い行いを繰り返して、良い心を取り戻すことが出来たなら、天使は無理でも、悪魔じゃない別の良い何かになれる可能性はあるかもしれない!」


マリアは、期待に満ちた目で凪を見た。

これが可能ならば、出来ることも違ってくる。


「調べてみよう。」


マリアの隣で、ずっと静かに成り行きを見ていた凪が、快く引き受けた。

いつの間にか、ずいぶんと頼もしくなったと、マリアを見て、思っていたことは、口にしなかった。






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