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約束と契約  作者: オボロ
103/114

#103 現れた凪



「いい加減にしなよ。」

シューッ!


ジェシカを抱くマリアの腕の隙間から、ジェシカの足を掴もうとしたバトの手から煙が上がった。


「ジェシカが泣いているよ。早くこっちに渡して。」

シューッ!


伸ばしたノラの手からも、煙が上がった。

痛みは無くても、マリアに触れた瞬間、力が抜けるような感覚があり、使い魔達は、マリアに触れる度、顔を顰めた。

しかし、焼けたり溶けたりするような実害が無い為、使い魔達は追撃の手を緩めない。

ジェシカを庇いながら逃げるマリアを追いかけ、次から次へと手を伸ばして来た。


「やめて!来ないで!近づかないで!」

「もう諦めなよ。」


痺れを切らしたヴィゼが苛立ち、ジェシカではなく、マリアの腕を掴む。


シューッ‼

「っ‼」


マリアの腕を掴んだ瞬間、ヴィゼの手から物凄い量の煙が噴き出した。

ヴィゼは驚き、咄嗟にマリアを掴んだ手を離した。

今度こそ、手首から先が無くなってしまったかのような煙の量だった。


「「ヴィゼ!」」

「「ヴィゼ!」」


使い魔達は叫び、B・Bは駆け寄った。


「ヴィゼ。」


B・Bはヴィゼの腕を掴み、手の存在を確かめた。


「………。」

「……無事です。大丈夫です。」


心配するB・Bに、ヴィゼは言った。

ヴィゼの手は痺れているみたいに、指先が小刻みに震えていた。



「………。」


マリアは、使い魔達の動きが止まったこの隙に、じりじりと距離を取り、更に凪に念を送った。


何が起こっているのか分からない。

自分に何の力があるのか分からない。


今、使い魔達がマリアに触れると起こる現象が、マリアを守る為のものだとしても、これによって事態が悪化してしまう予感が、マリアにはあった。


強硬手段に出るかもしれない。


煙は大量に出るかもしれないが、溶けるわけでもないし、焼けるわけでもない。

少しばかり力が抜け、少しばかり痺れる程度であれば、力づくで連れ去ることは可能だと、考えても可笑しくない。


凪!凪!凪!

今度こそ、本当にダメかもしれない!

お願い!お願い!お願い!



ヴィゼの手の無事を確認したB・Bの顔つきが変わった。

作り物であれ、優しそうな笑みは消え、凍り付くような冷たい表情がマリアを見る。

そして、凍り付くような冷たい声で言った。


「もう終わりにしよう。無理やりなどと言う乱暴な方法で連れ去りたくはなかったが、子供だましのような脅しでどうにかなると思っているのなら、やり方を変える必要がある。どうか暴れないでくれ。泣きわめくようなはしたない真似もしないで欲しい。マリア、終わりだ。」


B・Bは、自らマリアに近づき始めた。

使い魔たちは、マリアの逃げ場を塞ぐように動いた。

言わずとも、意思疎通が出来ていた。


「出来ることなら、君を傷付けたくはなかった。しかし、君はわたしの使い魔達を脅した。言葉ではなく、術でだ。君はわたし達が使う魔術を、随分と毛嫌いしているようだったが、君だってわたし達が知らない奇妙な術を使っている。脅すだけの幼稚な術だ。わたしは、そんな幼稚な術に、わたしの使い魔達が怯える姿など見たくない。それならば、いっそわたし自身がそんな術など握り潰し、君を連れ去ろう。ジェシカはそのまましっかりと抱いているがいい。ジェシカごと君を連れ去ることにした。」


B・Bが手を伸ばした。

部屋の隅に追い詰められたマリアは、逃げ場を失っていた。


「………。」


逃げ場の無いマリアは、目を瞑った。

B・Bが怒っているのが分かった。

マリアが、使い魔たちを怯えさせて楽しんでいると、思い込んでいる。

マリアの意志では無いのに。

マリアの意志では、どうすることも出来ないのに。



凪!凪!凪!

助けて!凪!



「………っ‼」


B・Bは、マリアの肩を掴んで、振り向かせた。


「っ‼」

シュワーッ‼


瞬間、とてつもない量の煙が溢れ出た。


「………。」


B・Bは顔を顰めたが、それでも、マリアから手を離さなかった。


シュワーッ‼


煙は途切れることなく溢れ出て、B・Bとマリアを包み込む。

煙に巻かれ、B・Bからもマリアからも、互いの姿は見えなくなった。


「………。」


マリアは、肩を掴むB・Bの手が震えているのを感じた。

抜けていく力に耐えているのかもしれない。


マリアは、B・Bの手を振り払おうと、体を捩じった。

B・Bは、マリアを逃がさないよう、マリアの肩を掴む手に力を込めた。

だが、思うように力が入らなかったのだろう、もう片方の肩も掴み、引き寄せた。


「あっ。」


マリアは、もう駄目だと思った。

このまま引き寄せられてしまったら、身動きが出来なくなり、ジェシカ諸共連れ去られてしまう。


「ぐっ!」


つんのめるように前へ出たマリアの目の前に、突然、何かが現れ、マリアは顔を激突させた。

同時に、両肩を掴んでいたB・Bの手が、離れたのが分かった。

B・Bの手が離れたことで、溢れ出る煙は止まり、やがて、煙は消えた。

マリアは、煙が消えて、ようやく、何と激突したのかを知った。


「力づくとは、穏やかでは無いな。」


マリアの目の前に立っていたのは、マリアがずっと待ち望んでいた凪だった。



「待たせたようだな、マリア。ようやく来ることが出来た。」


凪は振り向かなかったが、マリアには、凪が微笑んでいるのが分かった。







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