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約束と契約  作者: オボロ
102/114

#102 根比べ



「あー…あー…」


マリアとジェシカが居るラグに、B・B達は辿り着いた。

B・Bはマリアの隣に腰を下ろし、使い魔達はジェシカの近くに居る。

マリアは、手を伸ばすジェシカの手を掴み、決して使い魔達に触れないようにしていた。


どうすれば凪を呼び寄せることが出来るのか、マリアには分からなかった。

ただ闇雲に思うだけではダメなのかもしれない。


「覚悟は決めて来たかい?」


B・Bが言った。

今回、B・Bは、ジェシカと一緒にマリアも連れて行くと、言っていた。


「わたしは一緒に行かない。ジェシカちゃんも連れて行かせない。」

「それは困った。」


きっぱりと言い切るマリアを見て、B・Bはくすりと笑った。

ちっとも困っていない笑い方に、マリアは文句の一つも言ってやろうと思ったが、ジェシカの手の傍で、ペルシャ猫が撫でて欲しそうに頭を近づけていたり、カラスが構って欲しそうな動きをして、ジェシカの気を引いているのを見て、マリアは、ジェシカの手を遠ざけたり、ジェシカの向きを変えたりと、せわしく動くことに意識が向いてしまい、何も言うことが出来なかった。


「ジェシカは来るよ。見てみなよ。ジェシカは俺たちに興味津々だ。喜んで来るさ。」


コウモリが自信満々に言った。


「ジェシカちゃんは人見知りをしない良い子なの。だから、そんな変な色のコウモリ見ても、変だとは思わないの。でも、行かないし、行かせない。こらっ、ジェシカちゃんに近づかないで。しっしっ。離れて!」


マリアはバトに言い返し、ペルシャ猫の逆側からジェシカに近づくイタチを追い払った。


「そんなに触らせるのが嫌?」


B・Bが聞いた。

マリアは即答した。


「ええ、嫌よ。だって、あなた達は魔術を使うわ。衛生的なことだけなら、洗えば綺麗になるけど、魔術は洗ったって解けないでしょ?どんな術なのか、どうすれば解けるのか、わたしには分からないんだから、こういう方法で防ぐしかないわ。」


「ジェシカは触りたがっているのに、可哀想だとは思わないの?」

「思わない。ジェシカちゃんを守る為だもの。」


ヴィゼの責めるような言葉にも、マリアは即答した。


「1人でも勇敢なこった。」


カラスが馬鹿にした。


「今は1人でも、きっと凪は来るわ。」

「どうやって?」


カエルが聞いた。


「どうやって?うーん、どうやってなのかなぁ。」


マリアは悩んだ。

御弥之様みやのさまは、思うことで具現化すると言っていたが、どうやって現れるのかは聞いていなかった。


「神使だからね。方法があるのだろう、きっと。」


マリアの代わりに、B・Bがドドに答えていた。

ドドとクロは、それで納得したようだったが、ヴィゼとノラとバトは、どこか納得できない様子だった。

マリアには、不満そうな顔をして、「ふーん。」と言っている少年の顔が見えたような気がした。


「そう言えば、わたし、名前を聞いていなかったわ。」


マリアは、とっさに思い付いたことを口にした。

ノラは、初めて会った時に名乗っていたが、他の四人は、マリアに名前を明かしてはいなかった。

B・Bも紹介していない。


「あなたがノラなのは知っているけど、他の子達の名前、聞いていなかったでしょ?」


マリアは、「急に何を言っているんだ、こいつは。」という感じで、きょとんとしている使い魔達に言った。


「ははっ、そうか。まだ紹介していなかったか。」


B・Bは可笑しそうに笑い、紹介を始めた。


「カラスはクロ、コウモリはバト、カエルがドドで、イタチがヴィゼ。少年の姿は見た事あると思うけど、名前と一致しないかもしれないね。」

「ううん。何となく、分かる。たぶん、大丈夫だと思うわ。ノーラに術を掛けたのがノラだって教えてくれたの、あなたよね?クロ。ジェシカが生まれるのを教えてくれたのが、ヴィゼで、黒い羽根を持って来たのが、バト。会った時、いつも大人しかった子が、ドドね。」


マリアは全員を言い当てた。

不思議なことに、それぞれの姿にダブって、少年の姿がぼんやりと、マリアには見えていた。

どうして見えたのかは分からない。

だが、今の姿と少年の姿を一致させることが出来て、マリアは嬉しかった。

少しだけ近づいた気がした。

分かり合えるような気がした。


「名前も分かった。見分けることも出来た。これで、もう安心して一緒に行けるな。」


バトが言った。

バトは、コウモリの姿から、少年の姿に変化していた。

上下、黄緑色の服を着ている。


「………っ!」


ふと、近づく気配に気づいたマリアが振り向くと、ドドも少年の姿になっていて、ジェシカではなくマリアに手を伸ばしていた。

ドドは、オレンジ色の上下の服を着ている。

マリアは、危険を察知し、ジェシカを抱いたまま、立ち上がった。

その時、ドドの手が、マリアの肩をかすめた。


シューッ‼

「っ!」


掠めた瞬間、火に水をかけたような音がして、煙が上がった。

すぐさま、B・Bと使い魔達は、マリアから離れた。

ドドも、すぐに手を引き、距離を取り、まじまじと手を見て、変化は無いか、確認をした。


「……溶けてない…。溶けたかと思った。」


ドドが言った。

手の存在を確認した後も、不安げに手を開いたり閉じたりを繰り返していた。


「痛みは?」


B・Bが聞いた。

B・Bだけではなく、バトもノラもクロもヴィゼも、不安そうなドドの様子に心配していた。


「痛くはない。でも、ちょっと力が入らない感じがして……。うん、もう大丈夫みたい。」


ドドは「ほらっ。」と、手を開いたり閉じたりして、無事であることを見せた。

B・Bも使い魔達も、そのことには安心した顔をしたが、部屋の中には、穏やかではない空気が流れた。


マリアに触れることは危険かもしれない。

何かに守られているマリアに触れると、力が入らなくなるとドドが言っていた。

消滅してしまう可能性もゼロではない。

ならば、マリアを連れて行くことは出来ない。

マリアを連れて行くことが出来ないと、分かった今、せめてジェシカだけでも連れて行かなければ!


ノラも、ヴィゼも、少年の姿に変わった。


「あーん。あーあん。あーあん。あーあん。」


ジェシカが泣き出した。

自分の周りに居た動物たちが、突然に消えてしまったからかもしれない。

急に変わってしまった空気を、ジェシカなりに察した可能性もある。


「大丈夫。大丈夫だよ。」


マリアは、ジェシカをあやしながら、使い魔達と距離を取った。

ジェシカを取られてしまったら、本当に終わりだと思った。


何としても守らなければならない。


「さぁ、ジェシカを渡して。」


ノラが、マリアへ手を伸ばした。


「ジェシカ、こっちにおいで。」


ヴィゼも、マリアへ手を伸ばした。


「やめて、来ないで。」


マリアは、ジェシカを隠すように抱え、使い魔達に背を向けた。


マリアに触れることは出来なくても、ジェシカには触れることが出来ると踏んだ使い魔達は、少しぐらいの危険は覚悟で、ジェシカを掴もうと手を伸ばす。

マリアの手や身体だけでは隠し切れない、ジェシカの手や足や頭を掴もうとしていた。

ジェシカの手でも足でも頭でも、掴んだら力づくでもマリアから取り上げようとするに違いない。

力いっぱいジェシカを引っ張る使い魔達と、マリアが力で抵抗したなら、ジェシカは絶対に痛い思いをするだろう。

その時、マリアには、抵抗し続ける自信が無かった。

痛みに泣くジェシカを見たら、きっと手を放してしまう。

このまま、ずっと逃げ続けられるとも思えない。

捕まるのは、もう時間の問題だった。


マリアは、使い魔達に背を向け、ジェシカを隠しながら、次から次へと伸びて来る使い魔達の手を避け、部屋の中を必死に逃げ回った。

使い魔達の伸ばした手は、時々マリアに触れ、触れる度にシューッ!という音と共に煙が上がった。

それでも、使い魔達は怯まないし、諦めなかった。



凪!助けて!

助けて!凪!

早く助けに来てよ!凪!

凪‼



使い魔達を阻んでくれることを願いながら、マリアは凪を呼び続けた。







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