#102 根比べ
「あー…あー…」
マリアとジェシカが居るラグに、B・B達は辿り着いた。
B・Bはマリアの隣に腰を下ろし、使い魔達はジェシカの近くに居る。
マリアは、手を伸ばすジェシカの手を掴み、決して使い魔達に触れないようにしていた。
どうすれば凪を呼び寄せることが出来るのか、マリアには分からなかった。
ただ闇雲に思うだけではダメなのかもしれない。
「覚悟は決めて来たかい?」
B・Bが言った。
今回、B・Bは、ジェシカと一緒にマリアも連れて行くと、言っていた。
「わたしは一緒に行かない。ジェシカちゃんも連れて行かせない。」
「それは困った。」
きっぱりと言い切るマリアを見て、B・Bはくすりと笑った。
ちっとも困っていない笑い方に、マリアは文句の一つも言ってやろうと思ったが、ジェシカの手の傍で、ペルシャ猫が撫でて欲しそうに頭を近づけていたり、カラスが構って欲しそうな動きをして、ジェシカの気を引いているのを見て、マリアは、ジェシカの手を遠ざけたり、ジェシカの向きを変えたりと、忙しく動くことに意識が向いてしまい、何も言うことが出来なかった。
「ジェシカは来るよ。見てみなよ。ジェシカは俺たちに興味津々だ。喜んで来るさ。」
コウモリが自信満々に言った。
「ジェシカちゃんは人見知りをしない良い子なの。だから、そんな変な色のコウモリ見ても、変だとは思わないの。でも、行かないし、行かせない。こらっ、ジェシカちゃんに近づかないで。しっしっ。離れて!」
マリアはバトに言い返し、ペルシャ猫の逆側からジェシカに近づくイタチを追い払った。
「そんなに触らせるのが嫌?」
B・Bが聞いた。
マリアは即答した。
「ええ、嫌よ。だって、あなた達は魔術を使うわ。衛生的なことだけなら、洗えば綺麗になるけど、魔術は洗ったって解けないでしょ?どんな術なのか、どうすれば解けるのか、わたしには分からないんだから、こういう方法で防ぐしかないわ。」
「ジェシカは触りたがっているのに、可哀想だとは思わないの?」
「思わない。ジェシカちゃんを守る為だもの。」
ヴィゼの責めるような言葉にも、マリアは即答した。
「1人でも勇敢なこった。」
カラスが馬鹿にした。
「今は1人でも、きっと凪は来るわ。」
「どうやって?」
カエルが聞いた。
「どうやって?うーん、どうやってなのかなぁ。」
マリアは悩んだ。
御弥之様は、思うことで具現化すると言っていたが、どうやって現れるのかは聞いていなかった。
「神使だからね。方法があるのだろう、きっと。」
マリアの代わりに、B・Bがドドに答えていた。
ドドとクロは、それで納得したようだったが、ヴィゼとノラとバトは、どこか納得できない様子だった。
マリアには、不満そうな顔をして、「ふーん。」と言っている少年の顔が見えたような気がした。
「そう言えば、わたし、名前を聞いていなかったわ。」
マリアは、とっさに思い付いたことを口にした。
ノラは、初めて会った時に名乗っていたが、他の四人は、マリアに名前を明かしてはいなかった。
B・Bも紹介していない。
「あなたがノラなのは知っているけど、他の子達の名前、聞いていなかったでしょ?」
マリアは、「急に何を言っているんだ、こいつは。」という感じで、きょとんとしている使い魔達に言った。
「ははっ、そうか。まだ紹介していなかったか。」
B・Bは可笑しそうに笑い、紹介を始めた。
「カラスはクロ、コウモリはバト、カエルがドドで、イタチがヴィゼ。少年の姿は見た事あると思うけど、名前と一致しないかもしれないね。」
「ううん。何となく、分かる。たぶん、大丈夫だと思うわ。ノーラに術を掛けたのがノラだって教えてくれたの、あなたよね?クロ。ジェシカが生まれるのを教えてくれたのが、ヴィゼで、黒い羽根を持って来たのが、バト。会った時、いつも大人しかった子が、ドドね。」
マリアは全員を言い当てた。
不思議なことに、それぞれの姿にダブって、少年の姿がぼんやりと、マリアには見えていた。
どうして見えたのかは分からない。
だが、今の姿と少年の姿を一致させることが出来て、マリアは嬉しかった。
少しだけ近づいた気がした。
分かり合えるような気がした。
「名前も分かった。見分けることも出来た。これで、もう安心して一緒に行けるな。」
バトが言った。
バトは、コウモリの姿から、少年の姿に変化していた。
上下、黄緑色の服を着ている。
「………っ!」
ふと、近づく気配に気づいたマリアが振り向くと、ドドも少年の姿になっていて、ジェシカではなくマリアに手を伸ばしていた。
ドドは、オレンジ色の上下の服を着ている。
マリアは、危険を察知し、ジェシカを抱いたまま、立ち上がった。
その時、ドドの手が、マリアの肩を掠めた。
シューッ‼
「っ!」
掠めた瞬間、火に水をかけたような音がして、煙が上がった。
すぐさま、B・Bと使い魔達は、マリアから離れた。
ドドも、すぐに手を引き、距離を取り、まじまじと手を見て、変化は無いか、確認をした。
「……溶けてない…。溶けたかと思った。」
ドドが言った。
手の存在を確認した後も、不安げに手を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「痛みは?」
B・Bが聞いた。
B・Bだけではなく、バトもノラもクロもヴィゼも、不安そうなドドの様子に心配していた。
「痛くはない。でも、ちょっと力が入らない感じがして……。うん、もう大丈夫みたい。」
ドドは「ほらっ。」と、手を開いたり閉じたりして、無事であることを見せた。
B・Bも使い魔達も、そのことには安心した顔をしたが、部屋の中には、穏やかではない空気が流れた。
マリアに触れることは危険かもしれない。
何かに守られているマリアに触れると、力が入らなくなるとドドが言っていた。
消滅してしまう可能性もゼロではない。
ならば、マリアを連れて行くことは出来ない。
マリアを連れて行くことが出来ないと、分かった今、せめてジェシカだけでも連れて行かなければ!
ノラも、ヴィゼも、少年の姿に変わった。
「あーん。あーあん。あーあん。あーあん。」
ジェシカが泣き出した。
自分の周りに居た動物たちが、突然に消えてしまったからかもしれない。
急に変わってしまった空気を、ジェシカなりに察した可能性もある。
「大丈夫。大丈夫だよ。」
マリアは、ジェシカをあやしながら、使い魔達と距離を取った。
ジェシカを取られてしまったら、本当に終わりだと思った。
何としても守らなければならない。
「さぁ、ジェシカを渡して。」
ノラが、マリアへ手を伸ばした。
「ジェシカ、こっちにおいで。」
ヴィゼも、マリアへ手を伸ばした。
「やめて、来ないで。」
マリアは、ジェシカを隠すように抱え、使い魔達に背を向けた。
マリアに触れることは出来なくても、ジェシカには触れることが出来ると踏んだ使い魔達は、少しぐらいの危険は覚悟で、ジェシカを掴もうと手を伸ばす。
マリアの手や身体だけでは隠し切れない、ジェシカの手や足や頭を掴もうとしていた。
ジェシカの手でも足でも頭でも、掴んだら力づくでもマリアから取り上げようとするに違いない。
力いっぱいジェシカを引っ張る使い魔達と、マリアが力で抵抗したなら、ジェシカは絶対に痛い思いをするだろう。
その時、マリアには、抵抗し続ける自信が無かった。
痛みに泣くジェシカを見たら、きっと手を放してしまう。
このまま、ずっと逃げ続けられるとも思えない。
捕まるのは、もう時間の問題だった。
マリアは、使い魔達に背を向け、ジェシカを隠しながら、次から次へと伸びて来る使い魔達の手を避け、部屋の中を必死に逃げ回った。
使い魔達の伸ばした手は、時々マリアに触れ、触れる度にシューッ!という音と共に煙が上がった。
それでも、使い魔達は怯まないし、諦めなかった。
凪!助けて!
助けて!凪!
早く助けに来てよ!凪!
凪‼
使い魔達を阻んでくれることを願いながら、マリアは凪を呼び続けた。




