#101 最初の一手
「………。」
迷路のように続いている真っ白な通路を、歩き続けていたマリアが行き着いた場所は、最初にマリアが居た場所と同じような真っ白な部屋だった。
「………っ!」
部屋の真ん中あたりに柔らかそうな白いラグが敷いてあり、その上に赤ん坊の姿を見つけて、マリアは駆け寄った。
ジェシカだった。
布団のようなふわふわのラグの上で仰向けに寝ているジェシカの傍には、真っ白な本体にパステルカラーのオーナメントがぶら下がっているメリーゴーランドがある。
マリアをここまで案内したオルゴールのような音は、このメリーゴーランドから流れている“ロンドン橋”だった。
メリーゴーランドにぶら下がっているオーナメントは、近くまで来て、ようやくその形が何か分かった。
ペルシャ猫、コウモリ、カエル、トリ、そして、人の形をしている。
残り1つは、誰でも見れば、すぐに分かる動物ではなかったが、マリアには、それがイタチだと分かった。
おそらく、トリはカラスなのだろう。
どれも優しい印象を与えるパステルカラーだ。
ピンクのペルシャ猫、空色のコウモリ、緑色のカラス、そして、オレンジ色のカエルと黄色いイタチ、ハットを被り、マントを羽織った紫色の人。
ジェシカは、回っているそれらに手を伸ばし、ご機嫌な様子だった。
「ジェシカちゃん?」
マリアは不安になって、名前を呼んだ。
しかし、ジェシカはオーナメントから目を離さなかった。
これは、B・B達の作戦だ。
マリアは思った。
彼らはきっと、その色を身に纏って現れるのだろう。
ジェシカが怖がらないように。
ジェシカの気を引くために。
ジェシカがすぐ懐くように。
「ジェシカちゃん。」
マリアはジェシカに触れた。
それでも、ジェシカはマリアを見ない。
仕方なく、マリアはジェシカを抱き上げ、自分の腕の中で寝かせた。
メリーゴーランドから引き離すことも考えたが、ジェシカが泣く可能性もあるので、メリーゴーランドは見えるようにした。
いつ、どこから、B・B達が現れるか分からない。
ただでさえ人見知りをしないジェシカのこと、オーナメントと同じ姿の彼らを見て、喜んでしまうかもしれない。
ジェシカを奪われてしまったら、お終いだと、マリアは感じた。
凪、早く来て。
凪、早く来て。
凪、早く来て。
凪は、まだ現れなかった。
「にゃーぉん。」
「………っ!」
ネコの声がした。
ジェシカは反応して、声がした方へ顔を向けた。
マリアも見た。
部屋の隅で、淡いピンク色のペルシャ猫がお座りしていた。
「ゲコッ」
ペルシャ猫とは真逆の方向で、カエルが鳴いた。
「………っ!」
振り向くマリアは、視界にオレンジ色のカエルの姿を捉える前に、ペルシャ猫が居た隅の隣の隅に空色のカラスが居るのを見た。
「………っ!」
そこからカエルが居る隅までの途中に、黄色いイタチがお座りしているのも確認した。
マリアは逆側も、ぐるりと見た。
「………。」
カラスの反対側には、淡い緑色のコウモリ、黄色のイタチの反対側には、淡い紫色のハットに淡い紫色のマント、淡い紫色のスーツを着たB・Bが居た。
「やぁ、マリア、よく来たね。ジェシカ、初めまして、ご機嫌で何よりだ。」
B.Bは被っていたハットを手に取り、紳士的なお辞儀をした。
そして、再びハットを被った瞬間が合図であるかのように、全員が一斉に近づき始めた。
「あー…あー…」
ジェシカは怯えていない。
ピョコピョコと、空色のカラスが跳ねるように近付いて来るのを見て、手を伸ばし、話し掛けている。
「………。」
凪!凪!凪!
早く来て!凪!
マリアはジェシカをしっかりと抱いて、心の中で叫んだ。




