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約束と契約  作者: オボロ
10/114

#10 芸術肌とスポーツ馬鹿


ニコラス学園には中庭があり、校舎は中庭を取り囲むように建てられている。

まず、中庭を眺めながら歩ける回廊があり、その外側に4つの校舎が並んでいる。

東西南北に分かれた4つの校舎には、大小様々な部屋があり、目的に合わせて使い分けされていた。

芸術、研究、遊び、スポーツなど、校舎ごとにテーマがあって、その中でも幾つものエリアに分かれている。

放課後のクラブ活動は、そのクラブに合ったエリアの部屋が割り当てられ、最終下校時間までの使用が許されていた。

例えば、西棟のテーマは“芸術”で、文芸、美術、音楽、デザインと言う風にエリア分けがされている。

文芸、美術、デザインは騒ぐ活動をしないし、音楽も、演奏するのではなく聴く方で、視聴は全てヘッドホン越し———と、徹底がされている為、西棟では、どこのクラブも、比較的、いつも静かに活動していた。

しかし、この日は、いつもと様子が違った。

美術エリアのあちらこちらで、数人の女子生徒達が集まっていて、何やら興味深そうに、ひそひそと話をしている。

クラブ活動そっちのけで、夢中になって見つめる先には、1人の少年が歩いていた。


優雅なフリルの付いた白いシャツ。

スーツは黒のチョークストライブ。

緩やかなウェーブのある長いプラチナブロンドを、赤いリボンで纏めている。


まるで中世の貴族かと思うような少年は、気品のある足取りで、校内を颯爽と歩いていた。

どう見ても場違いなのに、違和感がないのは、その恰好がよく似合っているからなのだろう。

絵画から飛び出して来たような美少年に、「あの子は一体誰なのだろうか?」と、集まった女子生徒達は皆、注目していた。


「あの…、写真クラブのモデルの方ですか?」

「え?」


勇気ある女子生徒が声を掛けた。

突然に声を掛けられ足を止め、驚いたように振り向いた少年が、無視をするわけでもなく声を発したことで、他の生徒達も駆け寄り、話し掛ける。


「写真クラブじゃないなら、絵画クラブですか?」

「雑誌のモデルとかやっていますか?」

「いくつですか?」

「学校はどこですか?」

「ここに転校してくる予定とかありますか?」


矢継やつぎ早に質問が飛んで来て、目を丸くしていた少年だったが、すぐに気を取り直して、実に品のある、柔らかな笑みを浮かべた。


「これは、これは。随分と積極的なレディ達ですね。」


少女達は、声にならない熱狂の叫び声を上げた。







一方、サッカーグランドでは少年達が盛り上がっている。


「行けー‼」

「行け、行けー‼」


今日、初めて参加した少年が、華麗なるドリブルを見せている。


「そらよ!」


ディフェンスをかわした後に繰り出したミドルシュートが、気持ちいい程、綺麗に決まった。

サッカー場に歓声が沸いた。

既に一人で3点も決めている。

余程、サッカーが好きなのか、楽しくて仕方がないという顔で、ボールを追い、走る少年の姿は、勝率が低迷していたサッカークラブの男子生徒達の心を鷲掴みにした。


「すごいよ、君。」

「絶対にサッカーやるべきだよ‼」

「どこかのクラブに入っているの?」

「掛け持ちでも構わないさ!」


ベンチに戻って来た少年を囲み、生徒達の熱烈な勧誘が始まった。

当の少年は、貸してもらったタオルで汗を拭いながら、考えを巡らせている。

少年の様子は、誰が見ても返答に困っていた。



「あれ?クロじゃないか。」



「え?」


突然に、名前を呼ぶ声に反応して、少年は振り向いた。

サッカー場に入って来た、琥珀色の髪の少年と目が合った。

クロと呼ばれた少年は、その琥珀色の髪の少年に見覚えがあった。

ヴィゼだ。

全体的に色素の薄い、体が弱そうな知的な少年———という印象の少年が、軽快な足取りで近づいてくるのを、近くに居た女子生徒達は、ひそひそと話をしながら、頬を染めていた。


ヴィゼは、更に話し掛けた。


「ルイーザにはもう会えたの?急ぎの用事があったんじゃなかったっけ?」

「えー…っと…。」


クロは言葉に詰まった。


最初からサッカークラブに入るつもりなど無く、クロは、ただサッカーがしたくて混ぜてもらっただけだった。

思いっきり走ったり、思いっ切り蹴ったりなど、カラスの姿では出来ないこと。

混ぜてもらったら、楽しくて、夢中になって、ルイーザのことは忘れてしまった。

そのことを、ヴィゼが責めているように思えて、返答に困ってしまった。


すると、サッカークラブの生徒の一人が、助け舟を出すみたいに、言葉を発した。


「ルイーザって、9年生のルイーザ?ルイーザ・ベトソン?」

「知ってるのか?」


クロは、反射的に聞いていた。

思わぬところから、思わぬ言葉を聞いて、期待に胸が膨らんだ。

これで自分のミスはチャラになるかもしれない!


聞かれた男子生徒は、苦笑いを浮かべた。


「知っているっていうか…有名だからね。」


同意を求めるように隣を見ると、隣にいた生徒は心配するように言った。


「彼女は今、ゴシップクラブだと思うよ。何かされたのなら、直談判するより先生に言った方がいいと思うけど……。」


急に深刻そうな話になったので、クロは、ヴィゼを窺った。

ヴィゼは、わずかに微笑みながら答えた。


「ありがとう。無理だと思ったらそうするよ。行こう、クロ。」


呼ばれるがまま、クロは立ち上がり、ヴィゼの傍に駆け寄った。


「助かった、ヴィゼ。」

「感謝してよ、クロ。」


「また来てくれ」と言うサッカークラブの男子生徒達に手を振って、2人はサッカーグランドを後にした。

2人が向かっている先にあるのは東棟。

2人は、一番近くにある東棟から校舎内に入り、ゴシップクラブを探すことにしたのだった。



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