検証#1
カインの体を借りたロズキは時計塔を下り、そのまま学園を出て、
そのままの勢いで王都の城壁を抜けて小高い丘まで来ていた。
あたりは完全に日が落ち、町の大通りに申し訳程度に設置された街灯の淡い光が
後ろを振り返ると、ぽつぽつと付き始めていた。
周りに誰もいないことを確認して、
「今日から私も魔法使いだ――――――――!!!!!」
両手を勢いよく上にあげ大声を上げた。
「もー。最初の導入疲れるー。堅苦しいー。でもやんないと借りられないし、相手納得してくんないし。やらなきゃなんだけどさー。」
よっこらしょという効果音とともにその場の草むらに寝転がる。
そのまま空を見上げると、視界いっぱいに星が輝いている。
地球と同じような月は見当たらないが、青、赤、緑など色とりどりの光であふれていて、
あまりの美しさに時間を忘れて見入ってしまった。
物心ついたころから私は、空というものを見たことがなかった。
もちろん本で読んだり、話に聞いたことはあったが、やっぱり実際に見るのとは感動が違う。
記憶にある地球で見た最初で最後の空は、親友の正が連れ出してくれた時に見た空で、その時は曇っていて星も、月も出ていなかった。
地球の空は、これとはまた違った「キレイ」なんだろうか。
「正と一緒に見たかったなー。。。。
おっと、いけないいけない。キレイすぎて時間を忘れていた。
早速魔法を試してみよう!確か、カインは魔力はあるけど魔法は使えないって言ってたっけ。」
ロズキは、またよっこらしょという効果音とともに起き上がった。
「まずは、正に教えてもらった魔法の呪文を試してみよう!」
そういうと、ロズキは右手をバッと前に突き出して、
「ファイアーボルト、サンダーボルト、ウォーターボール!!!!!!」
と、大声で叫んだ。
ただただ、近くの木から驚いた鳥が飛び立っていった。
地球にいた頃、正が楽しそうにMMORPGというものについて話してくれた。
そこで彼は魔法使いだったらしい。
簡単に魔法使いになれると聞いたその時から、正と同じ魔法使いに自分もなることにあこがれていた。
話を聴いているうちに、それが本当に魔法が使えるわけではなく、ゲームの中の話であることは理解していった。
最初、本当に正が魔法使いであると勘違いしていて、正に大笑いされたのはロズキの黒歴史だ。
ロズキは、その時にメインで使っていたと教えてくれていた魔法の名前を叫んでみた。
「うーん。だめかー。これは、呪文がダメなのか、カインの魔法が使えない体が問題なのか。」
ぶつぶつとつぶやきながらロズキは、その場で真剣にどうしてできなかったかを考え込んでいる。
大抵の人間が履修する漫画、アニメなどを通過せず、ほとんどの人付き合いを行ってこなかったロズキにとって、何が恥ずかしい行動なのか、発言なのかといった、
いわゆる一般常識は、残念ながら備わっていなかった。
ひとしきりぼやいた後、はぁーと息を吐いて、
「考えても答えが出ない時は原点回帰!気を取り直して、まずは、カインの体を知るところから始めよう。」
そういって、ロズキはカインの体をペタペタ触り始めた。
体の表面、皮膚や心臓の鼓動がどこから聞こえるか。息をした時の肺の動きなど、
元の自分の体と何か違いがあるかを確認していく。
魔法を使う人とそうでない人に何か違いがあるのだろうかとワクワクしていたが、
「そうだなー。見た感じ体のつくりは同じかな。皮膚に無数の傷跡があることと、やせすぎであることを除けば普通か、、、、、ん?」
予想に反して普通だなーと思っていたが、自分の言った言葉に、ロズキは違和感を覚えた。
カインの体は、正直やせすぎている。
腕も、足も少しぶつけたら折れそうなほど細いし、肋骨もくっきり浮いている。
なのに、自殺を図った時計塔から王都外のこの丘に来るまで、ノンストップで来たが、
全く疲れなかった。疲れるどころか息が上がってすらいない。
これはどういう状況なのだろうか。