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2022/10/15編集しました。
あまりにも突拍子も無いことを言われて、カインは開いた口が塞がらなかった。
いくら魔法が一般的な世界とは言え、今目の前に起きている事は、あまりにも現実から逸脱していた。
そんな自分などお構いなしに、目の前の人物は話をつづけた。
「私があなたから体を借りるにあたって、以下の条件を提示します。
1.体を借りている間、私から体を傷つける行動は致しません。
これには自殺も含まれます。
2.体を借りている間、他人との恋愛、結婚は致しません
3.体を借りている間、あなたからの願いを1つかなえます。
もし、今思いつかないのであれば、後日でも構いません。
また、2を希望される場合はそれでも構いません。
いかがでしょうか。
今人生を終わらせるのであれば、少しの間でも構いません。
私に体を貸していただけないでしょうか。」
自分が置かれている現状も、目の前のロズキと名乗った人物が言っていることも全く理解できなかったし、もうボクは何も考えたくなかった。
「どうして」
そんな自分から自然と声が漏れた
「どうしてほっといてくれないの?もうほっといてよ、疲れたんだよ、生きていたくないんだよ。終わらせたいんだよ。かかわってこないでよ。」
意識せずにぽつぽつと言葉が出ていた。
そういえば、学園に入ってから息をひそめて生きてきたから、言葉を発すること自体久しぶりだな。
平民でありながら魔力持ちであり、神官様に認められている。
しかもその神官様は英雄と謳われる「ディクター・ケーニッヒ」様だ。
平民であるというだけで学園内の格好の的なのに、身分不相応にもディクター・ケーニッヒ様に
目をかけられているということが、迫害に拍車をかけていた。
ボクは、魔法使いとなって国に認められ、住むところ、食べるものに困らない、
今まで育ててくれた父さんと母さんを助け、みんなで人並みの生活が送りたいだけだったのに。
そんな望みすら踏みにじられた、入学とほぼ同時に妬んだ平民から家族も殺され、
それでもなお、何とか生きていかなければと必死にしがみついていたが、
今日、いじめの中心人物である「グリードリヒ・フィー・ヴォルウィン」から、形見のロケットを壊されたことで、目の前が真っ暗になったのだ。
あの時のグリードリヒらの笑い声が無性に響いて聞こえた。
自分の心が砕け散る音を聞いた気がした。
もう、限界だった。
「それと、ボクは魔力があるのに魔法が使えない欠陥品です。ボクの体を使うのはやめたほうがいいですよ。」
嘲るように吐き捨て、ボクは立ち上がった。
そして目の前の人物に背を向けて、教会に見えているこの空間から出ようと、
扉に向かって歩き出した。
改めて、ここから出て、時計台から落ちないと。
早くこんな人生終わらせて、父さんと母さんの所に行かないと。
そうして扉に手をかけようとしたとき、
「では、どんな魔法が使えるのか試す楽しみがあるのですね。」
そんなボクに、ロズキと名乗った人物はそういった。