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かぜさき旅行記  作者: 斎藤 正
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プロローグ 風咲ロズキ(かぜざきろずき)





雨が降っている。


ざあざあと激しい音が鳴り響き、アスファルトに横たわった私の体を無数の雨粒が打っている。

物心ついたころから地下室で暮らしていた私にとっては、通常であれば忌み嫌う雨で体が濡れるという状態でさえ、心地よく感じた。



だが、ふと、どうしてだろうと疑問が沸き起こった。

先ほどまで、親友であるただしに手を引かれて走っていたはずだったのだ。

正が地下室から出してくれて、外で楽しく、一緒に暮らそうと誘ってもらったんだった。

そして、地下から抜け出して、正に連れられて走って、それで、

大きな衝撃が体を襲ったかと思うと、気が付いたら目の前にアスファルトが広がっていた。

自分がアスファルトの上に倒れていると気づくまでに時間を要した。



「ロズキ!」



正の叫び声が聞こえる。

そうだ。正。

正は無事なんだろうか。



「ロズキ!しっかりして!ロズキぃ!」



正が私の体を抱き起したのか、視界がアスファルトから、正の顔へ移った。

最初に出会った頃の小さなモミジのような手ではなく、がっしりし始めた力強い手が私を掴んでいた。

いつもの楽しそうに笑う正の顔ではなく、雨と涙に濡れてぐしゃぐしゃになった正の顔が私の視界いっぱいに広がった。

良かった。正は無事だ。



しかしその顔を見て、私は悟ってしまった。正は無事だが、私の体はもう駄目だ。という事に。



「泣かないで、ほら。」

そう言いたかったけど、私の口は言葉を紡いではくれなかった。

正の涙をぬぐおうと必死に手を伸ばそうとしたが、少し手が動いただけで思うように上がらなかった。

それに気づいた正が、私のその手を力いっぱい握ってくれた。



「ロズキ!だめだ、だめだ!これから一緒に楽しいことするんだろ!これからもっともっと!だから!」



視界が、どんどん薄くなっていく。正の声だけが私の耳に届いていた。

もうすぐこの体は動かなくなる。

けれどその前に、正に伝えたかった。悲しむことはないのだと。

なぜなら確信があったからだ。もう一度正に会える確信が。

だから、私は精一杯の力で笑顔を作り、



「待ってて。」



と、口を動かした。

これに正が気づかなくても問題ない。その時は私から会いに行って驚かせてやろう。

だが、正は気づいてくれたようで、激しく頷いて、



「わかった。待ってる。ずっと待ってるから。」



と、言ってくれた。

その言葉を聞いて感極まったのか、正につられて一筋の涙がこぼれた。

そのまま私の意識は途切れた。



2020年8月  日本 某都心にて、風咲ロズキの人生は終わった。




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