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かぜさき旅行記  作者: 斎藤 正
18/21

#5





「大変申し訳ないが、ギルド内での冒険者同士の私闘は禁止事項だ。これ以上あなたが手を下すと正当防衛ではなくなる。一旦この男の処遇は私に任せてほしい。」


頭の上から、かなり渋い男性の声が落ちてきた。視線を上げると、いかにも紳士といった風貌の、ギルド職員の制服を着た老人が立っていた。

私は、かけられた言葉には反応しなかった。それどころではなかった。




「この男は、ギルド内での暴行、新人冒険者の殺人未遂により、軽くても冒険者資格のはく奪となる。そのあたり詳しくお話をさせていただきたいのだが、一緒に応接室まで来ていただけるだろうか。」


そう、私に話しかけているように聞こえてはいたのだが、


「・・・・・・・・・・ほぅ。」


「ほう?」




視界に入ったとても美しい銀の魔法の杖に釘付け状態になっていたため、降ってきた言葉に全く反応を見せず、杖をガン見状態で止まっていた。

当たり前だが、もう、ぶっ飛ばした筋肉のことなど記憶から完全に消去されていた。

反応のない私を不審に感じたのか、声の主が私の顔を覗き込んできた。

最初はかなり緊張した面持ちだったが、私の顔を見た瞬間、驚きに目を見開いた。

私の顔は、先ほどの表情が抜けた状態から一変して、目がハートになり、にへらぁと溶けきっていた。

そして、その視線は彼が持っている杖に向いていた。

それに気づいたのか、老紳士は、彼の持っている杖を私の前から右へ動かした。

すると、私の顔もそれにつられて右へツーっと動いた。


老紳士が、私が自身の杖に見惚れていると理解した時、はー。と深いため息をつき、


「冒険者の皆、お騒がせした。この件は私、ギルドマスターが預かる。この件についてはその他の職員も一切、口出しを禁ずる。当事者の詳しい処分は後日私から公表する。以上だ。ギルド職員はそこで延びている男を治療院へ放り込んでおけ。治療費はその男持ちでな。」


ギルド内にそう通知して、私の目の前に自身の杖をかざした状態で、2階の応接室に戻っていった。

その杖につられて私もそのまま応接室に入った。



その光景をギルド内にいた者たちは、とても複雑な心境で見ていた。




◆ ◆ ◆




ドガン!というとんでもない破壊音に驚き、慌てて二階ロビーから一階のギルドホールを見下ろした。

そこにはとんでもない光景が広がっていた。

ホール全体をとんでもない殺気が覆いつくしていて、本来テーブルと椅子が配置されている場所に大穴が空き、更に、受付カウンターから足が生えていた。

あまりに殺気の濃度が濃いせいで、受付担当の一般人は気を失っている者もいる。

現在ホール内にいる冒険者の中で最上位になるBランクパーティのサラマンドラですら、

動けないでいた。

そんな中、受付カウンターに記録用の水晶が録画中の状態で置いてあることに気づいた私は、それを停止し、録画内容を確認した。

どうやら酔っぱらった素行の悪い冒険者が新人に絡み、手ひどく返り討ちにあったらしい。

そしてどうやらその新人は、先日私が登録初回の説明を気分で担当した時の子であるようだ。

確か名前は「ロズキ」といったか。

まあその説明の時、本人は冒険者として早く活動したいという気持ちでいっぱいだったのか、大して話も聞かず、説明が終わるとさっそく依頼を複数受けて去っていったので、私のことは覚えていないだろうが。


そんな彼が、現在火中真っ只中であり、しかも新人でありながらこの殺気と破壊力。

報告には聞いていたが、さすがに止めに入らないとまずいと考え、

今にも受付カウンターにめり込んでいる相手にとどめを刺そうとする彼の前に、自身の杖を抜いた状態で、立ち塞がった。


ロズキに対して、悪いようにはしないから引くようにと伝えたが、本人は少し顔を上げただけで、全く反応を示さなかった。

それどころか、少し震えているように見えた。それほどまでにロズキは激昂しているのか。

もし、彼がその力のまま暴れたら、ギルドはおろか西地区が崩壊しかねない。

何とか怒りを鎮めてもらおうと私は言葉をつづけた。


「この男は、ギルド内での暴行、新人冒険者の殺人未遂により、軽くても冒険者資格のはく奪となる。そのあたり詳しくお話をさせていただきたいのだが、一緒に応接室まで来ていただけるだろうか。」


そう伝えてみたが、やはり反応はなかった。

もし、ロズキに納得してもらえず戦闘になった場合、腕の一本は覚悟しなければと考えていたその時、




「ほぅ。」




と、全くこの場にそぐわない声が聞こえた。もちろん声の発信元はロズキその人だ。


「ほう?」


私は反射的にその言葉を繰り返していた。

慌ててロズキの顔を覗き込むと、先ほど浮べていた死神を思わせるような無表情は影もなく消え去り、何とも言い難い、でろんでろんに溶けきった表情がそこにはあった。

そして、視線をたどると、どうやらその視線は私の持っている杖に向いているようだ。

ためしに、杖を持っている手を右にスライドさせてみたところ、面白いくらい同じ方向にロズキの顔が動いた。

どうやら、怒り心頭ではなく、私の杖に見とれて反応を示さなかったようである。


とりあえず一旦、ギルド崩壊の未来は防ぐことができた、という事に安堵した私は、

はー。と詰めていた息を吐きだして、その場の全員にこの件についての口出し禁止と、ギルド職員に伸びている男の対処を言い渡した。

そして私は、ちょっと、いや、かなり恥ずかしかったが、自身の杖をロズキの目線の高さにかざしたまま、応接室へ移動した。

狙い通り、ロズキは杖に誘導されるがままに応接室へ移動したが、正直二度はごめんだ。


そして、二人で部屋を移動した。

今は私の杖に興味津々なのでいいが、これから、彼に話を聞いてもらい、納得してもらわなければならない。

そこは私の手腕にかかっている。

交渉決裂の際には、ギルド崩壊、西区崩壊の未来がやってくる可能性があることを再認識して、

私は、第二の戦場である応接室にて、ロズキの向かいに座った。








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