#4
それは、本当に一瞬。
気が付いたら筋肉の持っている斧が粒子単位で粉々になり、筋肉自身も受付カウンターに吹っ飛び盛大にめり込んでいた。
勿論、私の体はかすり傷一つついておらず、その場に立ったままだった。
周りは何が起きたのか理解できていなかった。
◆ ◆ ◆
新人冒険者に絡んでいたのは冒険者界隈でも有名な男で、新人をターゲットにして暴行やカツアゲをやっていると悪いうわさが絶えない、悪い意味で有名な中級冒険者だ。
「噂」止まりとなっている理由は、いつもこの男は絶対にギルド内ではそういった行動は全く行っておらず、しっぽを掴めないでいるのだった。
だが、今日は何か虫の居所が悪かったのか、朝からギルド内のホールで大量の酒を飲み、散々わめき散らかしていた。
ほとんど聞き取れたものではなかったが、「金」や「あいつら」という単語を繰り返しているようだ。
そして、その男はそのままの勢いに任せてサラマンドラパーティに絡み、逆に返り討ちにあったところに新人冒険者が絡み対応の違いに逆上して、今の状況に至っている。そして、プラスで相手が新人という事を知り、ギルド内という事もお構いなしで絡んできたのだ。
周囲のメンツは、自身には関係ないと静観している。
ギルドの上、ギルド受付である私の上司からこれ幸いと指示があり、その中級冒険者の噂を確定させる証拠となる行動を記録するようにと指示があった。
間に入って騒ぎを止めずに記録に専念するようにとのことだ。
申し訳ないが、絡まれている新人冒険者には犠牲になってもらうという事でギルド側を納得させると上司は言っていた。
そうは言われても、勿論、冒険者人生がダメになるほどの負傷を負わせる前に割って入る予定ではあった。
受付担当の私は録画用の水晶玉をセットした。
録画を始めるとすぐに、中級冒険者が騒ぎはじめ、直後、あろうことか手に持っていた斧を新人冒険者に振りかぶった。
その軌道は、新人冒険者の頭を狙っていた。
頭?!
流石にまずいと思い、反射的に「危ない!」と叫んで立ち上がろうとしたが
、、、、、、、、、、できなかった。
新人冒険者がやられる!と思った瞬間、痛みを錯覚するほどの殺気がギルド中に広がり、動くことができなくなった。
そのまま呼吸ができないほどの息苦しさと、激しい悪寒が私を襲った。
そして間もなく、「パキン」という音と、「ドガン!」という恐ろしい衝撃が私の前にあるカウンターに走った。
何が起きたか全く理解できないでいたが、恐る恐る視線だけ下に下げると、
私の座っていたカウンターから、中級冒険者の足が伸びていた。
まさか、あの一瞬で吹き飛ばされた?新人冒険者に?!
そんな中であるからか、次に新人冒険者から発っせられた声はギルド内に静かに響き渡った。
◆ ◆ ◆
「それはつまり、私の邪魔をするという宣言で間違いないか?」
その言葉を私が発したと、吹っ飛ばされた筋肉が認識するのに、一拍の間があった。
「なんだ・・・?何しやがったてめ・・・・・ヒッ!」
自分に向けられた言葉だと理解できた筋肉がめり込んでいた受付カウンターからはい出し、さらに脅しをかけようとしたが、先程の位置からカウンターの前まで一瞬で移動していた目の前の私を見て一瞬でその顔が恐怖で青ざめた。
筋肉の視界に入ったのは、表情が完全に抜け落ち、全く笑っていない目を見開いて相手をガン見した状態で、口角が上がった状態の私だ。
この筋肉こと、目の前でカウンターに埋まっているこの男は、私が新人であるという事が分かった状態で危害を加える目的で絡んできた。
そして、先ほどの斧の軌道は、完全に私の頭を狙っていた。
腕、足 などではなく頭だ。
つまり、私の命を奪い、自由を奪うと宣言したのだ。
「自由」
それは私が生きていく上で最も大切なものである。
これを侵されることが、私の逆鱗である。
それをこの男は侵した。
それすなわち、私の排除対象になったことを意味する。
「私の邪魔をする。自由を奪うというなら、、、、、容赦はしない。」
「容赦はしない。」そう言うと、私は完全に表情を消して、一歩、目の前の男に近づいた。
私の前に障害があれば、全て破壊して進む。
それが私、風咲ロズキの座右の銘だ。
私は「身体強化」とつぶやき、目の前の男の顔面に向けてこぶしを振り下ろした。
男の顔面がトマトのようにつぶれる。
そんな未来が確定したと思ったその時、
「そこまで。」
目の前の男の絶望に染まった顔しか入っていなかった私の視界に、
その言葉と共に、細かい装飾が施された銀色の魔法の杖が入ってきた。




