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かぜさき旅行記  作者: 斎藤 正
12/21

#4




カインの涙が収まるのを待って、ロズキは目の前にいる司書のアウグニル教授に声をかけた。




「教授にだけ、お話したいことがあります。」




カインの記憶通り、カインの口調に合わせて会話をする。

元々のロズキの一人称は「私」だが、カインは「ボク」のため、こちらも「ボク」を使う。

ロズキが体を借りる際、元の人物と接点のある相手に対しては、できる限り元の人物としてふるまうようにしている。

もし、違うとばれた場合、そして体の持ち主が望んだ場合のみ、現状を説明するようにしている。

理由はもちろん、ロズキが面倒だからだ。





「今回のことで決心しました。ボクはこの学園から退学しようと思います。」




そういって、ロズキは立ち上がった。




「英雄と謳われたディクター・ケーニッヒ神官様に推薦いただきましたので、何とかご期待に応えようといたしましたが、自分にはそれはかなわないようです。

本当に申し訳ありません。」




そういって、ロズキはアウグニル教授に頭を下げた。



カインが初めて図書館へ逃げ込んだ際、司書であるアウグニル教授に声をかけられた。

その時言われた言葉が、「ケーニッヒ様より、あなたを気にかけてほしいといわれている」ということだった。

だから、私の行動はすべてケーニッヒ様に報告がいく。ゆえに、私はあなたを傷つけることができないのだと。

平民である自分を庇うなんて、何を考えているかわからないと最初は拒絶していたカインだったが、その言葉を聞いて少し心を許したことは事実だった。


それから、カインは事ある毎に図書館へ逃げ込むようになったのだ。

図書館にいる間は安全だったから、カインはアウグニル教授と、ケーニッヒ神官のことは信じているようだった。


ロズキから言わせれば、階級意識の高い社会の中にいきなり平民を入れて何をあほなことをしているのかと、いったいその神官は何がしたいのかこの大馬鹿が!という話だ。

しかも学園全体での対策、対応全くなしで、授業とは全く関係ない司書一人よこしただけで対応した気になっているとは、何かをしようとしたにせよ、全くもって考えが甘い。

そんな相手を、ロズキは全く信用などしていなかった。




だが、今はカインとしてふるまっているので、表向きは、感謝している、申し訳なく思っているという風に見えるように行動していた。

ここで、本来のカインと解釈不一致な行動をとり、大騒ぎされると後々厄介であることを、

ロズキは過去の次元旅行にて経験済みである。




「あれからボクもいろいろ考えました。それで、今日すぐにとは言いませんが、

できるだけ早く退学しようと思います。

そこで、先生にお願いがあるんです。」




ロズキは洋服の裾をぎゅっと両手で握りしめ、言うことをためらっている、

ように見えるように装った。




「どうか、ボクに読み書きを教えてください。」




そう、その神官はカインに読み書きは勿論、この国について、金銭について何も教育しない状態で学園に放り込んだのだ。

奴隷扱いされている最底辺の平民は生きていくだけで精一杯。学などない、ということがわからなかったらしい。

本当に甘い。考えも、行動も、何もかもが。




こんな国にいては、ケーニッヒ神官含め周りの貴族連中に食い物にされて終わってしまう。

せっかく体を借りたのに、それでは全く楽しくない。



なのでロズキは、この学園で得られる自分が楽しむための知識を詰め込み、

早々にこの国から出ていくことを計画していた。

知識を得るためには文字の読み書きができることは必須。

というわけで、この図書館へ来たのだ。

「立っている者は親でも使え」って正も言ってたっけ。




その言葉を聞いていた彼女は、何かを言おうと口を開いては閉じるを繰り返していたが、




「わかったわ。」



と、最後には承諾した。


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