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かぜさき旅行記  作者: 斎藤 正
11/21

#3



その女性は、見た目は50代後半といったところだろうか、白髪交じりの髪を一つに待て止めていて、肩には淡い黄色のストールがかかっている。

いわゆる、品のいい老婦人といったところだ。



そんな老婦人がカインを視界にとらえるや否や、こちらに走り寄ってきて、




「あぁ、カイン君!無事でよかった。」




そう言いながら目に涙を浮べ、カインの体を抱きしめた。

彼女はこの図書館の司書を務めているジュリア・フィー・アウグニル教授。

この図書館に本を集めた要塞総責任者の子孫にあたるのだそうだ。

アウグニルの一族は代々、この図書館の管理を生業としており、現在は当主である彼女が司書を務めている。




「よかった、本当に、無事で、よかった、よかった」




つまり彼女も貴族であるのだが、平民であるカインを心から心配し、いつも逃げるように図書館へ来ていたカインの手当てをし、司書室にかくまってくれていた、唯一学園内でカインを助けてくれた人物だ。


もちろん彼女にも何か理由があり、助けていたのかもしれないが、この貴族至上主義の社会で平民に手を差し伸べること自体が相当に難しいことである。

それを実行していたからこそ、カインは何とか昨日まで生きてこれたのだ。

今のロズキには、彼女に対して感謝の気持ちしかなかった。




「ありがとうございます。アウグニル先生。」




ロズキはそういって、彼女が泣き止み、カインの体を離すのを、じっと待っていた。







「ごめんなさい、カイン君。取り乱してしまったわね。」




あれから彼女がひとしきり泣いた後、ロズキは彼女に司書室に招かれ長めのソファに2人で腰かけていた。

彼女はカインに頑張って笑顔を向けていたが、泣きはらした目が真っ赤になっていた。




「昨日何があったか聞いて、あなたのことを探していたの。でも見つけられなくて。もしかしたら図書館に来てくれているかもと思って待っていたのだけど、本当に会えてよかった。」




彼女はそういうと、カインの両手を彼女の手で包んで、優しく握った。

確かに、彼女の靴に視線を向けると泥まみれになっている。

図書館と、本が汚れるからといつも魔法で身だしなみを清潔に保っていた彼女からは考えられない状態だった。




「あ、そうそう。ちょっと待ってね。」




そう言うと、彼女は自身のポケットに手を入れ、何かを取り出し、

近くにあった布で取り出したものをふき取って、カインに渡してきた。




「何とか探したのだけど、これだけしか見つけられなくて。本当にごめんなさい。」




そういって渡されたのは、砕かれたロケットのかけらと、中に入っていたであろう楕円形の紙だった。

その紙は写真で、今は亡きカインの両親が映っており、母親に抱かれた赤ん坊のころのカインも映っている。




「ご両親はもしかしたら別の国で貴族に縁のある方々だったのかもしれないわね。この写真には保護の魔法がかかっていたから。見つけられて本当によかった。」




彼女はそういって、カインの手に、ロケットのかけらと写真を握らせてくれて、そっと手を包んだ。

その瞬間、反射的にカインの目から涙があふれてきた。そしてロズキの中にカインの心が流れ込んできた。




「よかった。本当に。ありがとうございます。先生。ありがとう。」




ロズキはそのまま、その思いを代弁して彼女に伝えた。

彼女は、カインが泣き止むまで、涙をハンカチで拭ってくれた。


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