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七十三回目


「なぁ、今日何の日か知ってるだろ?」


「さぁ? 私には分からないけど?」


「まったまたー、今日はバレンタイン」


「そう、それが?」


「もしかして用意してないのか?」


「一個だけ準備したわよ」


「そ、それってもしかして……」


「あなたの想像通りよ」


「まじか、ついにこの時が……」


「今年もお父さんにあげるけど、何か期待してた?」


「……してないっ!」


「だったら何で半泣きなのよ」


「泣いてなんか、ない」


「ほら、これあげるから泣き止みなさいよ」


「これは?」


「昨日作った失敗作。捨てようと思ったけど、あなたにあげるわ」


「おぉ……。俺にくれるのか?」


「いらないなら捨てるだけよ。失敗作だし」


「もらいます! ありがたくもらいます! あと、これ受け取ってくれ」


「なにそれ?」


「昨日、クッキー焼いたんだ」


「私に? それは持ち帰れないわね」


「そう、か……。そうだよな」


「今、ここで一緒に食べましょう」


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