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緑の魔法師  作者: 葉月望
緑の魔法師~落日の哀歌~
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第三十五話『残光』

――前回のあらすじ


 十六年前の屈辱を晴らそうと戦うシャヒンは徐々にアルサメスを押し始めた。そしてやがて、戦いはアルサメスの拷問へと変わっていた。その頃、師の復讐に躍起になっていたシャーリヤだが、オミードの戦い慣れた戦闘に翻弄されていった。



 シャヒンの両目に映ったのは、全身が真昼のような輝きを放つシャーリヤの姿であった。


 「…………な、なんですか、これは!?」


 どうにか絞り出したセリフは、陳腐なものであった。


 「シャーリヤの暴走よ!」


 苦虫を百匹ほど口の中で潰したような表情を浮かべ叫ぶ。


 「あの世への手土産に、お前の命を持っていけば、師も喜んでくれるだろう」


 正気を失った目で、高笑いを上げるシャーリヤの全身は増々輝く。


 「あのおバカといい、男ってなんで誰かを道連れにしないと気が済まないのよ。どれだけ淋しがり屋なわけ」


 オミードが吐き捨てるように言ったおバカとは、一年前にオミードと最後の決着といって魔法を暴走させたメフルザードのことであった。

 シャーリヤの全身が輝きを増すと、大気が揺れ始めた。どうやら、質量も上がっているようだった。まるで超新星爆発が起こる前兆のように。


 「ど、どうしますオミード様!?」


 シャヒンの予想では、今から逃げ出しても間に合いそうにないであった。だからといって、何かいい手立ても思い浮ばず、最後の希望をオミードに託す。

 オミードも、自分だけなら五分の確率で逃げれるという判断であった。だがしかし、この城にはまだたくさんの兵士が残っている。しかも、眠ったままのオルテギハもいる。そんな人たちを放って逃げ出すことは、オミードの矜持が許さなかった。なんとか全員を守る手立てはないかと、あらゆる角度から検証する。


 「…………はぁああああ……。やっぱり、またあの手しかないかぁ」


 大きく息を吐き、頭を抱える。


 「何かお手伝いする事があれば言ってください」


 シャヒンの申し出を断ろうとしたオミードだったが、何かを思いついたように頷く。


 「私の左腕になってもらうわ」


 オミードはテキパキと指示を出したあと、シャーリヤと対峙する。


 「何をしようが、この爆発は止めれない」


 目を刺すような光を放つシャーリヤは、すでに直視出来ないほど輝いていた。その上、質量も増大していて、いつ爆発してもおかしくない状態となっていた。


 「自爆で何を勝ち誇っているのよ。あなたの負けよシャーリヤ」


 ウンザリそうに吐き捨てると、オミードは隠語を唱える。透けた黒い膜を作り出すと、それをシャーリヤに覆う。それにより光は抑えられた。その膜を、驚いた表情を浮かべシャーリヤが中から窺う。


 「物理防御結界だと……? こんなもので、私の爆発に耐えれると思っているのか!?」


 「質量が上がっている今のあなたは、動きたくても動けないでしょうけど、こうした方が運びやすいのよ」


 オミードは、城一つ分の質量に匹敵するほどのシャーリヤを魔法で浮かせる。それは相当集中しないとできない芸当であった。オミードは浮かせるだけで手一杯となっていた。少しでもコントロールをミスれば、巨大な質量となったシャーリヤを落とし爆発しかねなかった。そこでシャヒンの出番であった。飛行魔法でオミードを連れ上昇する。シャヒンも飛行魔法に神経を使っていた。なにしろオミードを急に引っ張り上げるとバランスを崩しシャーリヤを落としかねないのだから、命がけの飛翔魔法であった。

 絶妙なバランスで上昇していくと、二人の行く手に邪魔なものがあった。それは、大理石でできた謁見の間の天井であった。綺麗に細工された天井に近づく。


 「そのまま行って!」


 オミードの言葉に従い、シャヒンは高度を上げる。オミードは膜で覆われているシャーリヤを、まるで盾にするかのようにかざす。凄まじい破壊音を響かせ、天井を壊し上昇していく。

 壁を突き抜けると、漆黒の闇が広がる空に三人が姿を現す。黒い膜で覆われていてもシャーリヤの光が地上を照らす。

 降伏の為に城を出て行く兵士たちの頭上に、シャーリヤの光が降り注ぐ。兵士たちは足を止め見上げる。異様としか言いようがない光景に、兵士たちは恐れ戦き、走り出す。地上の様子を見たオミードが口を開く。


 「まだあんなにも人がいたのね。もっと高く上がりましょう」


 「で、ですが、そろそろ危険では」


 オミードの背中を押しながら、飛行魔法で上昇するシャヒンは心配そうに問う。


 「そうね。私たちの企みが分かったシャーリヤが、自爆を急いでいるみたい」


 シャーリヤは身動きが出来ない黒い膜の中で、歯がなくなりそうなほど激しく歯ぎしりをしながらオミードを睨みつけていた。そのシャーリヤに向け、オミードは思いっきり舌を出して挑発する。

 上昇を続ける三人は、やがて分厚い雲の中に入る。なかは大きな水滴に満たされ、全身がずぶ濡れとなりながらも上昇を続ける。やがて雲を抜けると、満天の星空に煌々と輝く月が大きく浮かぶ美しい夜空が眼前に広がる。


 「こんな綺麗な景色を最期に見れて良かったわね。シャーヒーンにいい土産話ができたじゃない」


 オミードは星空に負けないほどの満面の笑顔を浮かべる。


 「オミード様、そろそろ――」


 「ええ。じゃあね、あの世でシャーヒーンによろしく」


 そっと手を離す。

 黒い膜で覆われたシャーリヤは怒りを前面に押し出した形相を浮かべ、去りゆくオミードに向け叫ぶ。だが、膜に阻まれ聞こえなかったが、オミードは笑顔で見返す。やがて雲の中に入る。

 オミードとシャヒンは急いで下降を始める。顔に当たる水滴を気にしながら全力で飛翔する。雲を抜けた時だった――

 影すら飲み込むほどの光が、地上を一瞬照らす。間髪入れず全身を突き抜けるような重い衝撃が、オミードとシャヒンを貫く。シャーリヤの自爆は、分厚い雲を消し飛ばし、地上にいる兵士たちを殴るような衝撃と鼓膜を激しく揺さぶる爆音が降り注ぐ。

 その残響を聞きながらオミードは、憤りを感じていた。この国の為、そして国民の為に働いていたはずの人が、大切な人を奪われれば我を忘れる。そして、大切な人を奪った相手に対する復讐をしようとする。それは間違いで何も変わらないと分かっていても、その衝動を抑える事が出来ない。そして憎しみは憎しみを、復讐は復讐を呼び、負の連鎖は永遠に続く。それが現実であった。そう思うと、オミードは自分のやっている事に迷いが生じていた。


 「結局、私のしている事は新たな憎しみを生み出しているだけではないのだろうか?」と、いうことに――


 残響が鳴り止む頃、地上の騒がしさに気づく。オミードの目に入ったのは、城の近くで兵士たちとその身内らしい人たちが、喜び合う光景であった。おそらく兵士の身内が心配して城の近くまできて、様子を窺っていたのだろう。

 誰もかれも歓喜の笑い声を浮かべ、抱きしめあって無事を喜んでいた。

 その光景を見たオミードは、心の底が温かくなるのを感じる。そんな時に思い出したのは、皮肉にもスタテイラの言葉であった。

 「大勢の人を守る為に少数の人を犠牲にするのか、少数の人を守る為に大勢の人を犠牲にするのか」と、問われた時、答えれなかった自分――今でも、明確な答えは出ていなかったが、それでも一つ言える事はある。

 恨みを買うことを恐れず、この国を良くしていく為にも戦うんだと。

 そう思わせてくれたのは、地上で喜び合う人たちであった。


 「――シャヒン?」


 恨みという言葉で、アルサメスへの復讐を果たそうとしているシャヒンのことを思す。周りを見渡してみたが、その範囲には誰もいなかった。


 「シャヒンどこ!?」


 復讐の為とはいえ、人を殺せばシャヒンは犯罪者となり、捕まえなければならない。そんな事態は避けたかった。オミードは、復讐を果たす前にシャヒンを見つけようと城内に戻る。

 それに、気になっていたこともあった。いかに、シャヒンが商売で成功してお金を持っているといえ、ここまで王族であるアルサメスと三大諸侯に影響力があるわけがない。おそらく、シャヒンの復讐を完遂させるために、誰か大きな権力を持つ者が手引きしていたはずであった。それが誰なのか、どうしても訊きだしたかった。それに、その者はシャヒンの復讐の手伝いをしただけなのだろうか? これまでの事は、何か大きな計画の一環のように感じられた。だからこそ、これ以上この国に混乱の種をまかせない為にも、シャヒンの復讐を阻止して、相手の名前を聞きださなければならなかった。

 城内に戻ったオミードはオルテギハの元へと急いだ。シャヒンはアルサメスのいるところに行く。そのアルサメスの居そうな場所をしる唯一の人物は、オルテギハだった。


次回  第三十六話『覚醒による決戦』

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