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緑の魔法師  作者: 葉月望
緑の魔法師~落日の哀歌~
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第十八話『迎撃準備』

――前回のあらすじ


 オミードとシャヒンが山中で一夜を明かし、朝と共にディーナーに戻っている頃、公共の通信を使いアルサメスが全州に向け王朝批判をして、叛旗を上げる事を宣言したのだった。


 王族であるアルサメスが、公共の通信網を使い反乱を宣言するという前代未聞の事態に、政府はハチの巣をつついたような騒ぎとなっていた。

 国王カワードは事態の収拾を図る為に、政府高官と軍事高官を招集していた。


 ――一時間もしないうちに、国務大臣、防衛大臣、官房長官の政治家と統合幕僚長、魔法師師団長、王下魔法師長官の制服組が会議室に集まり、国王が来る前から議論をかわしていた。


 「反乱が各地に飛び火する前に、叩き潰すべきだ!」


 集まっている全員の顔を見渡し、声を荒げ持論を展開したのは、五十代後半で頭のハゲあがった魔法師師団長であった。


 「その通りだ。各地で不穏分子が暴れ出すと、鎮圧するのに数週間はかかる。しかも戦禍による爪痕から回復するには、もっと時間を要する事となるでしょう」


 魔法師師団長と意見を同じくしたのは、制服組と呼ばれる実戦に直接関わる制服組トップの統合幕僚長で、軍隊では最高司令官に当たり、政治では防衛大臣の補佐を務める。

 その統合幕僚長は、六十代後半で口ひげを生やした貫録のある男性であった。


 「手遅れになる前に、直ちにご命令を!」


 統合幕僚長の援護を受け、魔法師師団長は恫喝するように国務大臣に詰め寄る。普段なら叱責されるような態度だが、事態が事態なので、そのことを咎める者は誰もいなかった。


 「――国王陛下のご入室です」


 秘書官の言葉に、熱い討論を繰り広げていた政府高官たちは、起立して国王を迎える。

 カワードは沈痛な面持ちで現れると、全員に着席するよう伝えた。

 すぐに国務大臣から報告を受ける。


 「――大方の意見は、すぐに逆賊を討つべし、とのことです」


 その意見は、至極当然だと分かっていたが、叛旗を掲げたとはいえ、幼い頃から兄と慕っていたアルサメスを討つことは忍びないと、カワードの感傷が決断を鈍らせていた。


 「陛下、こうしている間にも、臣民に被害が及んでいるのですぞ!」


 「口を慎まぬか師団長!」


 国務大臣の時と同じように魔法師師団長が国王に対して恫喝めいた事を言ったので、防衛大臣も冷水を浴びたように青ざめた顔で叱責をする。

 魔法師師団長の不遜な態度は、非礼ではあったが、言っている事の正しさは誰もが認めざる負えなかった。とくに、カワードは臣民を第一にと考えているだけに、自分の決断が遅れれば、それだけ大勢の人に迷惑がかかると自覚していた。

 決戦か、交渉か、カワードが逡巡していると、ふと、あの闊達で勝気な性格のオミードの事が思い出された。もし、彼女がここにいれば「何を迷っているの、あなたにとって一番大切なのは何? 国民一人一人の幸せでしょ!」と、叱咤激励して背中を押してくれるだろう。

 そんな事が頭をよぎり、それがカワードの迷いを断ち切らせた。


 「ただちに迎撃の軍を組織して、即座に反乱を鎮圧せよ!」


 反乱という言葉に、チクリと心が痛んだカワードだが、表情には出さなかった。


 「謹んで承りました」


 全員が起立をして、退出する国王を見送った。

 軍の編成や作戦についての詳細は、統合幕僚長と魔法師師団長とあとで来る参謀総長を入れた三人が、この部屋で決める事となった。


 「……もっと長引くと思っていましたが、意外でしたな」


 感心したように、必要な書類を整理しながら魔法師師団長が国王についての感想を統合幕僚長に漏らす。


 「アルサメス殿下は陛下の従兄だからな、もっとわしらが尻を叩いてやらねば動かぬと思っていたのだがな……」


 統合幕僚長も魔法師師団長と同じ感想を漏らす。


 「さすがに即位して三年も経てば、王としての自覚も発芽するというものですかな?」


 魔法師師団長の意地の悪い言い方に、二人してくぐもった笑いを起こす。

 そんな時に、扉をノックして参謀総長が入ってきた。

 先ほどまで笑っていた二人は、ピタリと笑いを止めると不機嫌な顔で書類に目を通す。


 「――さて、反乱軍討伐の勅命が下ったのだが、反乱軍の様子はどうだ参謀総長」


 呼ばれた参謀総長は、四十代前半の壮年期だが、目つきが悪く、陰鬱そうな雰囲気に、不健康そうな顔色が、相手に不快感を与える人物であった。本人も自覚があるのか、特に気に入られたり媚びようとはせず、そのままの人物像を演じていた。


 「潜り込ませていた兵からの情報では――」


 「まて!? 貴君はすでに、チャハマールへ兵を潜り込ませていたのか!?」


 参謀長の発言を遮るように、師団長が驚いた声を上げる。

 それもそのはず、反乱のウワサがあったとはいえ、チャハマールは王族が治める領地である、そこに無断で兵を潜入させ、万が一にも見つかれば、下手をすれば死罪は免れないような行為であった。


 「あらゆる場合を想定して配置していますが?」


 平然と言い放つあたり、見た目とは違い豪胆な性格なのかもしれないと、目の前にいる陰鬱な参謀総長に驚きを感じる。


 「続けてもよろしいでしょうか?」


 「……ああ、頼む」


 「忍び込ませた兵によると、敵の総数は九万近くあるそうです」


 「そんなにもいるのか……」


 参謀総長の報告に、二人は驚きの声を上げる。

 そもそも一州が総動員出来る兵の数は、三万が限界であった。


 「誤報の可能性は? 映像とかはないのか?」


 にわかに信じがたい情報に、統合幕僚長が問いただす。


 「複数の兵からの報告ですので、兵数に関しては間違いないと思われます。映像の方ですが、どうやら妨害結界が張られているようで、入手は困難のようです」


 事前に準備していたかのような、参謀総長の滑らかな口の動きに、どこまで想定して動いているのか、味方ながら空恐ろしく感じられた。


 「しかし、総兵数九万と言いましても、おそらくは難民や流民などを寄せ集めたものだと思われます」


 多くの難民や流民が、チャマール州に流れているといった話を聞いたことがあった。それならば、九万の兵数といっても烏合の衆でしかない。


 「それで、アルサメス……殿下が言った、お二人の動きはどうなんだ?」


 統合幕僚長が、言葉を濁した相手は、三大諸侯のザルトーシュト候とソグディアノス候の二人で、アルサメスに名指しで反乱に参加していると表明されたが、確証はないので共犯者と現時点で決める事は出来なかった。


 「そちらは、二大諸侯領に隣接する駐屯兵からの報告では、今のところ動きはないとのことです」


 一先ずは安心してよい情報に、魔法師師団長と統合幕僚長は胸を撫で下ろす。


 「そちらは引き続き警戒と偵察だけでいいだろう――それで、迎え撃つこちらの兵力だが……」


 「そちらは、副官に命じ、即座に動ける師団の確認をしています。もう間もなく報告がくると思われます」


 淡々と話す参謀総長の前に、通信用の水晶が置かれていた。どうやら、そこに連絡が届く手はずとなっているようだった。

 すると、まるで図っていたかのように、水晶が青く点滅しだした。


 「首都からは第二師団と第五師団が出撃可能です」


 通信を開始すると、無駄な挨拶を省き、要点だけを話し始めた副官に、統合幕僚長と魔法師師団長は、どこまでも徹底していると薄気味悪く感じる。


 「……出撃させますか?」


 「……いや待て、もう少し情報が欲しい」


 「了解しました――聞こえたとおりだ、そこで待機」


 統合幕僚長は、あまりにもスムーズに段取りが進み、恐ろしく感じられ、一旦落ち着く時間が欲しかった。魔法師師団長の方は、少し不満そうに統合幕僚長を見つめる。


 「……それで作戦だが、先ほどの二師団を先遣隊として出撃させるとして、反乱軍がどこを通ってくるかだが……?」


 「可能性としては、イオニア州かニーシャープール州の二か所が王都に攻め込む最短ルートです。奇しくも、どちらの州も国王直轄地でありますので、そこが防衛線となるでしょう」


 参謀総長が新たに置いた水晶から、パルシア国の立体地図が映し出された。

 三人はそれを見つめ、作戦を立案していく。


 「各州の守備兵力はどれだけだ?」


 「各州共に二万です」


 さすがに心許ない数字であった。

 まともにぶつかれば、瞬く間にに見込まれそうな数字に呻き声を上げる。


 「魔法師は何人いる?」


 「二千人ほどです」


 「たった二千人だと!?」


 兵力として考えるには、あまりにも少なすぎる数字に目を見開き驚く。しかし、平時であれば、多いぐらいの人数でもあった。

 イオニア州もニーシャープール州もパルシア国の中央部に位置して、外敵からの被害を一番受けにくい位置にある。そんなところに、貴重な魔法師を無駄に配備する理由はなかった。だが、今回はそれが裏目に出る結果となった。


 「それで、反乱軍はどちらの州に向かうと考える?」


 それを早く知り、すぐに援軍を送らねば、むざむざ兵を死なせることとなる。


 「おそらくニーシャープールでしょう」


 立体地図の地点に、参謀総長が指を差す。

 統合幕僚長も魔法師師団長も頷き、その地点を見つめるが、すぐに疑問が浮かぶ。


 「なぜ、そこを通ると断定できる?」


 「ニーシャープールは、ちょうどソグディアノス候の所領三つと隣接しているのです。おそらく、そこを合流地点と考えているかと思われます」


 理に適った説明に二人は頷く。

 そして、敵の計画通り進んだ場合、ただの反乱ではなく、国を二分するような大戦へと発展する事となる事実に、背筋に冷たいものが流れる感覚を覚え戦慄する。


 「今は、全力でニーシャープールの死守を考えましょう」


 その通りであった。ここで手をこまねいていては、敵の作戦通りに事が進むばかりである。なんとしても出鼻をくじき、反乱に加担する事は自殺行為であるとパルシア国内に伝えなくてはならなかった。


 「それでは、第二師団と第五師団に出撃の命令を――それと、緑の魔法師殿の手配だが……」


 統合幕僚長が口を濁すのも、どんな事態であっても、緑の魔法師が簡単に要請に応えてくれないのは、軍首脳部に限らず、政府関係者全員が周知していた。


 「それに関しては、国王にお願いしていただければ、おそらく、お二人の緑の魔法師殿が動いてくださると思います」


 ここまで完璧に仕切ってきた参謀総長だが、緑の魔法師に関しては不確定要素が強く、陰鬱な表情を更に曇らせ話す。


 「それでは、第一陣出発後、招集できるだけ兵を招集して、各地で起こりうる第二、第三の反乱に備えよ!」


 統合幕僚長の号令一下、ただちに第二師団と第五師団が動き出す。

 その号令は、主戦場になるであろうニーシャープール州にも送られ、反乱軍を迎え撃つ準備に大慌てとなっていた。

 ――そして、参謀総長の予想通り、ニーシャープールの州境を越えて反乱軍が姿を現した。


次回  第十九話『急転直下』

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