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緑の魔法師  作者: 葉月望
緑の魔法師~落日の哀歌~
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第十四話『追撃戦』

――前回のあらすじ


 オミード達は緑の魔法師シャーリヤと部屋の一室で、魔法の応酬を繰り広げていた。そこに兵士が乱入してきて、シャヒンが脱出のチャンスを作るが、シャーリヤによって阻まれる。

 オルテギハを眠らせたシャーリヤはアルサメスを炊きつけ、それに乗り、戦乱は避けられない状態となってしまった。


 オルテギハの部屋から飛び出したオミードとシャヒンは、紺碧の空に輝く色とりどりの火花と爆音が轟く魔法攻撃を受けていた。


 「初歩的な魔法攻撃だけど、数が多いわね……。大丈夫?」


 シャヒンの魔法師としての力量が未知数なので、どれだけ援護しなければならないのか把握しておこうと声をかける。


 「これぐらいなら問題ありません。それより、ヤムナ殿はどうなさいます?」


 オミードの意図を汲み取ったシャヒンは、自分の冷静さを知ってもらおうと、近くで火炎弾が爆発する中、ヤムナの話題を振ってみせた。その様子を、オミードは迫りくる雷光弾や火炎球をかわしながら観察した。


 「ヤムナなら大丈夫。それより、私たちは無事ここから撤退する事を考えましょう」


 「わかりました」


 以前、シャヒンがオミードの手伝いをしたいと申し出た時に、魔法師大会本選出場資格を得たと言っていたことをオミードは思い出す。その時は、大袈裟な自己アピールだと思っていたが、自由に空を飛びまわるシャヒンを見て、嘘ではなかったと得心する。だが、シャヒンは民間人であり、もしこの戦いで命を落とすようなことがあれば、その責任はオミードにある。いては、オミードを任命した国王にまで責任が及ぶかもしれない。そんな事になれば、ザルトーシュト候辺りが勝ち誇った表情を浮かべ高笑いをしている姿が想像できた。

 そんなことはさせないと、奥歯を強く噛みしめたオミードは、シャヒンの援護を優先することにした。

 

 「もっとよく狙え!!」


 城壁上から、何の打開策もない命令を声を荒げて出す部隊長らしい男達が、あちこちで似たような無能な指示を出していた。

 とはいえ、数多くの流民や傭兵がチャハマール州に入っているだけのことはあり、城壁上には数多くの魔法師がひしめき合い、おびただしいまでの魔法攻撃を繰り出していた。そのせいで、城壁近くは重厚な弾幕ができていた。


 「……そう簡単に、この弾幕をかいくぐって逃げれそうにないわね」


 困った表情でオミードが呟く。

 このまま飛び回っていても、魔法が当たることはない上に、こんなにも出鱈目に魔法を繰り出していては、すぐに魔力が枯渇するだろうと予測できたので、それを待ってから悠然と撤退する方が無難のように思われた――

 だが、そう悠長に構えていられない状況にオミード達はいた。今ここに、緑の魔法師であるシャーリヤが現れれば、脱出するだけが極めて困難なミッションとなる。それでも、不可能だとオミードは思っていなかった。だが、無傷ではいかないだろうとも思っていた。

 思案顔でオルテギハの部屋と隙間なく輝く魔法攻撃の弾幕を、オミードは交互に見る。

 そんなオミードの思考の軌跡を察したシャヒンが、おずおずと提案する。


 「強引に突破しますか?」


 その提案を聞いたオミードは、より難しい表情を浮かべた。

 やがて、腹をくくった表情を浮かべシャヒンの顔を凝視する。


 「――シャヒンさん、私の手を引いて!」


 オミードの言葉の意味が分からず、シャヒンはきょとんとした表情でオミードを見る。すぐに、オミードが冗談で言ったのではないと分かった。どういう意図があっての申し出か分からなかったが、自分よりはるかに年の若いオミードの指示を信じて、飛行速度を合わせる。そして、差し出された右手を躊躇いながらも掴む。


 「それじゃ、今から私の飛行魔法を解除するから、このまま城外に向け全速力で駆け抜けて!」


 「え? どういう――」


 シャヒンの戸惑う声を無視して、オミードは宣言通り飛行魔法を解除した。その途端、シャヒンの左腕にオミードの体重が負荷され、バランスを崩す。二人は左に流され下降していく。シャヒンは慌てて態勢を整えようとした。その先で、魔法が爆発する。

 その爆発がオミードをかすめたので、シャヒンは心胆を寒くした。それでも、なんとか姿勢を整える事に成功したシャヒンは、「申し訳ありませんオミード様」と、視線を移す。すると、オミードは我関せず状態で隠語を唱えていた。その豪胆さに、シャヒンは感心しつつ、オミードを引っ張って飛行する調整を行う。

 やがて、飛行にも慣れてきたので、覚悟を決め大きく旋回する。そして、色とりどりに輝く重厚な魔法攻撃の弾幕に向かっていった。


 「奴らこっちにむかってくるぞ! 絶対に逃がすなああああ!」


 その動きを城壁上から見ていた兵士たちは、オミード達が強行突破を図る事に気づき、さらに多くの魔法攻撃を放つ。

 視界を塞ぐほどの爆発と、空気を伝わってくる重い爆音にシャヒンは一瞬怯む。だが、その恐怖を凌駕するほどの安心感が左手から伝わってきた。

 今は、王国の至宝と称えられる緑の魔法師と共にある事が、シャヒンの背中を力強く押す。すると、血液に乗り全身を駆け巡っていた弱気がどこかに消え、雨あられのように飛び交う魔法攻撃の中に、目を閉じて突っ込んでいった。

 しばらく無我夢中で飛行していたが、いつまでたっても何も起きない。しかも、全身を叩くような爆発の轟音が、止んでいた。不思議に感じたシャヒンは、ゆっくりと目を開け、その光景に目を見開き驚く。

 見渡せる限りの視界には、赤やオレンジや黄色や黒など死の閃光が煌めいていたが、それらは虹色に輝く薄い膜によって阻まれていた。オミードとシャヒンは大きなシャボン玉のような膜に覆われていた。


 「これは、まさか……反魔法防御陣!?」


 驚嘆の声をあげるシャヒンが言った反魔法防御陣は、以前シラズ州で起きた反乱に、ひょんなことから加勢する事となったオミードが、州軍と戦った時に古城にいる民間人を守る時に使ったのが、最高位の魔法師のみ使用可能な防御系最高の魔法である反魔法防御陣であった。それは同時に五つの属性魔法を防御するという究極の結界で、その膜に触れた魔法はすべて無効化するという代物である。しかし、最高峰の魔法だけに術者への負担は大きく、また、この術は魔法攻撃に対しては無敵であるが、物理的な攻撃には一切効果がなく、さらに術者は術を発動させている間、無防備状態となるという欠点があった。

 それ故に、オミードがこの術を使用したという事は、シャヒンを信用しているという証左でもあった。


 「凄い……わたしには、覚える事の出来なかった術……素晴らしい」


 感嘆の吐息を漏らしながら、魔法攻撃を無効化する光景を眺める。

 オミードは、気が逸れているシャヒンに注意を喚起するよう手を強く握った。

 その行為で、オミードの意図することが分かったシャヒンは、スピードを上げて脱出を図った。魔法攻撃が無効だと分かった守備兵は、次は近接戦闘へと移行してくるに違いなかった。逃げ道を塞がれる前に、オミード達は弾幕を抜けなければならなかった。

 そして、予想通り大勢の魔法師達がオミード達を追いかけてきた。しかも、見る見るうちに差を縮められる。オミードを連れて飛行するシャヒンと単騎で飛行する魔法師とでは、その速度差は歴然であった。

 それでも、前が見えないほどの弾幕の壁を、追いつかれる前に抜けることが出来た。


 「私が引きつけるから、あなたは先に逃げなさい!」


 反魔法防御陣を解いたオミードは、飛行魔法を唱えると、追っ手を待ち受けた。


 「わたしも戦います」


 「ダメよ! あなたは民間人なのだから、引き下がりなさい!」


 「しかし……」


 オミードの命令は絶対とはいえ、追ってくる魔法師の数が多すぎるとシャヒンは感じた。


 「寄せ集めの魔法師の百や二百、緑の魔法師を舐めないでよ! いいからあなたは逃げなさい!」


 数百人の魔法師を眼前にして笑みを湛えるオミードに、緑の魔法師の底知れぬ恐ろしさを垣間見た気がした。


 「……それでは、わたしは先に『ディーナー』に戻っています」


 「ええ、そこで落ちあいましょう」


 「ご武運を!」


 そう言い残すと、急いで戦線から離脱を計った。

 逃げ出すシャヒンに気づいた数十人の魔法師が、そちらに向う。


 「緑の魔法師相手によそ見は命取りよ」


 素早く隠語を唱えると、右手をピストルのように構え、シャヒンを追う一団に狙いを定める。


 「圧縮衝撃弾!」


 オミードの小さな手から放たれたものは、大人一人分の大きさを有した空気を圧縮した球体であった。

 それが、シャヒンを追う集団にぶつかる。その瞬間、爆音と共に爆風が起きる。その衝撃波が、魔法師達の内臓を揺さぶり、呻き声を上げながら、全員がまっさかさまに落下していった。その仲間を助ける為に、数十人の魔法師が向かった。


 「よくもおおおおお!」


 仲間をやられた怒りを露わに、数百人の魔法師達が怒号を発しながらオミードに向かっていく。


 「緑の魔法師が、直々に修行をつけてあげるのよ。しっかり学んで帰りなさい!」


 オミードは両手を広げ、大仰しく挑発して見せた。そうすることで、シャヒンに対する意識を逸らすのが目的であった。魔法師達は、完全にオミードだけに狙いを定め襲い掛かる。計算通りの動きに、オミードは些か物足りなさを感じたが、シャヒンの安全は確保できたと一安心する。

 有象無象の魔法師たちは、思い思いに遠距離魔法を放ってきた。


 「上位の魔法師相手に遠距離攻撃は、無駄に魔力を消費するだけよ。学校で習わなかったのかしら?」


 オミードは上昇して魔法攻撃をかわす。そして、太陽を背にすると、拳ほどの大きさでできた無数の氷をつくりだすと、高低差を活かした攻撃を仕掛けた。


 「空中戦では、より高い位置に陣取った者の方が有利――」


 空気を切り裂く音を轟かせながら、無数の氷が魔法師の集団に襲い掛かる。死なないにしても、重傷は免れないほどの氷に、魔法師達は恐れ戦き、各々がかわそうとしたせいで、仲間同士がぶつかり大混乱となる。

 紺碧の空に男達の怒号と悲鳴が入り乱れ、大勢の魔法師達が地上へと落下していった。この氷攻撃で、かなりの人数が脱落する。


 「攻撃をよけれたからって、安心してちゃダメよ」


 休む間を与えないように、上空から火炎弾を放つ。その攻撃をよけつつ、仲間との接触を避けるように動く。

 しばらく、断続的に時限付き火炎弾を放ち続けていたオミードは、呆れた表情を浮かべる。オミードの狙いは、散らばった敵を一か所に集める事であった。そんな事も分からず、魔法師達はオミードの掌の上で踊るように集まっていく。

 ある程度魔法師達が集まったところで、空気を圧縮した衝撃弾を放とうとした。


 「――もらったあああああ!」


 オミードの頭上から、男たちの勝利にうわずった声が響く。


 「その叫びは、教官によって評価が分かれるわね」


 頭上から襲い掛かってきた魔法師達に、オミードは慌てるそぶりも見せず、しかも、頭を掻きながら振り向く。


 「――仲間を助けようとしたとして『良』とするか、声を出さず、仲間を犠牲にしてでも敵を倒せと言うか――私は、仲間を助けようとした事を評価するわ。だけど――」


 雄弁に語るオミードに向け、魔法師達が一斉に火炎弾を放つ。


 「もう少し周りを見なさい。とも言いたいわね」


 余裕を持って火炎弾をよける。


 「――なにっ!? よ、よけろおおおお!」


 慌てた声で叫んだのは、火炎弾を放った魔法師達の方であった。彼らが放った火炎弾の行く先には、オミードによって集められた仲間の魔法師達がいたのだった。


 ドオオオオオオオオッ


 爆音が紺碧の空に響き渡る。

 朦々と立ち込めた煙の中から魔法師達が姿を現す。どうやら、魔法師達は防御結界を張っていたので無事だった。しかし、これにより、どこから仲間の攻撃が襲ってくるか分からないと疑心暗鬼に駆られ、戦々恐々となりお互いの顔を見渡し動けない状況となっていた。


 「さて、実戦講習はここまで、全員魔法学校からやりなおしね」


 厳しい評価を下したオミードは、紺碧のキャンパスに墨を撒き散らすように煙幕を張った。オミードが動くだけで、ビクリと体を震わせ警戒する魔法師達を呆れ顔で見る。

 そんなオミードの視界に、煙幕を大きく避けて数人の魔法師が姿を現した。


 「全員が、有象無象ってわけではないようね……。シャヒンも逃げたようだし、私も撤収しようかしら」


 姿を現した魔法師達の相手をせず、オミードは郊外に向け飛行を開始した。



 ――その頃城では、ハチの巣を突いたように、人々が大騒ぎしていた。そんな中、一人上空を見ながら、小さく安堵のため息を吐く男がいた。


 「お嬢様は、無事逃げたようだな……」


 執事の服をしっかり着こなすヤムナの隣にいた女が、我に返ったように体を震わせる。


 「お嬢様? ――そう、オルテギハ様大丈夫かしら!?」


 長いスカートを持ち上げ、メイド長が急いで城内へ戻る。その隙を突いて、ヤムナはメイド長と反対の城門へと走り出した。


 「ちょっとあなた、そっちはお城と反対よ! 戻ってきなさい!」


 背中でメイド長の声を聞き流しながら、ヤムナはこの混乱に乗じてトラキア城からの脱出を図った。



 ――紺碧の空は、先ほどまで物騒な轟音を轟かせていたが、今は嘘のように静まり返っていた。その空を、まるで風がそよぐように小さな影が滑空していた。その遥か後方から複数の黒い影が追う。――いや、追うにしては、あまりにも離れすぎていた。追われる者であるオミードと、追う者である魔法師とでは明らかな力量に差があり、それを、まざまざと見せつける結果となっていた。

 やがて、紺碧の空を十分堪能したオミードは、追っ手の存在を思い出し後ろを振り向く。広々とした青い空と深緑に満ちた山々以外、この大空には何も存在しかなかった。


 「もう少し手応えが欲しかったわ……。こんなメンツで反旗を翻そうとは、無謀もいいところね」


 アルサメスに対して、わずかな憐憫さを感じたオミードだったが、すぐに頭を軽く振り、その考えを払う。

 そして、シャヒンとの待ち合わせ場所である『ディーナー』に戻ろうと反転した時だった――脇腹に僅かな痛みが走る。

 その部位を見ると、服が鋭利な刃物で切られた様に裂け、それが肌まで達し、血が僅かに滲んでいた。


 「狙撃!? どこから?」


 オミードは傷口に指を当て、回復の魔法をかけ傷を治しつつ、振り向き狙撃者を探した。

 見える範囲に狙撃者の姿を捉える事は出来なかった。


 ――一体どこから?


 気配を探るよう空中で止まっていると、右側面で空気が破裂する音が響く。防御結界で魔法攻撃を防ぐ。


 「そこか!」


 オミードは、わざと的になるよう空中で止まり、相手の攻撃を誘った。まんまとオミードの罠にはまった狙撃手を仕留めようと、猛禽類のように滑空していく。


次回  第十五話『山間での死闘』

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