訪問の話
「……はぁ」
階段を駆け下りると……俺は思わず肩を大きく上下させていた。
それにしても、佐田の奴は……一体どういうつもりでこんな時間にやってきているんだか……
まさかとは思うが、時間までわからなくなった……そんなわけじゃないか。
俺はそう思いながら、昼休みということもあり、多くの学生が運動している校庭に出る。
普段ならば、教室の中で突っ伏して眠っているはずなのに……いつも他の学生はこんな風に遊んでいるのか……
俺にとってはなぜか少し新鮮味さえあった。
そして、俺は少しずつ校門に近づいていく。近づいていくにつれて……やはり佐田であることが確認できるようになってきた。
「よっ」
すぐ近くまでくると、佐田は嬉しそうに俺に挨拶してきた。
「お前……時間、わかっているよな?」
「時間? うん。わかるけど」
「……今はまだ放課後じゃない。それなのに……どういうつもりだ?」
俺がそう言うと佐田は少し恥ずかしそうにその茶髪を指先で弄びながら話を続ける。
「いや、メールで言ったじゃん。暇なんだ、って」
「暇って……俺は暇じゃないんだが」
俺がそう言うと佐田は少し間を置いてから先を続ける。
「……午後の授業、サボってもいいんじゃない?」
「……はぁ?」
俺がそう言うと佐田は笑いながら俺を見る。
「え……受けたい授業とかあるの?」
「そういう問題じゃなくてだな……サボるとかそういうことはしたくないんだよ」
「え? それって……嫌ってこと?」
「当たり前だろ。そんな面倒なこと――」
俺はそこまで行ってから気付いた。佐田が俺にしたいのは「俺が嫌なこと」だったことを。
佐田は俺のことを困らせたいのだ、ということを。
佐田は嬉しそうに俺のことを見ている。俺は思わず顔を逸してしまった。
「へぇ……だよね。岸谷、そういう面倒なこと、嫌いだもんね」
「……うるさいなぁ、もう」
「あはは! うん。わかった。今日は許してあげる。また、放課後ね」
そういって、佐田は俺に背を向ける。
「あ……おい」
俺がそう言うと、佐田は振り返って俺のことを見る。
「大丈夫。放課後までは待ってあげるから。今日は、ね」
いたずらっぽそうな笑顔を浮かべて、佐田はそのまま走っていってしまった。
俺はどうにも不安な気持ちを抱えながらも、なんとか佐田が帰ってくれたことに安心し、教室に戻ることにしたのだった。




