冗談じゃない話
授業中は……さすがに携帯を見ることは出来ないので、放っておいた。
電源も切っているので、連絡が来ているかどうかはわからない……というか、連絡はあまり来ていないでほしかった。
それは宮野にしても佐田にしても同様であったが……どちらかというと、宮野からの連絡の方が俺にとっては怖かった。
そして、午前中の授業が終わり、昼休み。
「岸谷」
瀬名の声が聞こえてきた。俺はそちらに顔を向ける。
「……なんだ」
「ん? あ、いやね……メールとか来たかなぁ、って」
興味有りげに、瀬名が俺にそう言う。一体コイツは俺のことを何だと思っているのやら……
俺は携帯を取り出し、電源を入れる。程なくしてメールの着信があったことがわかった。
「……あるな」
「お。マジか。それって……宮野さん? 佐田さん?」
俺はメールを見る……メールの送り主は佐田からだった。
「……佐田だ」
「へぇ。なんて書いてあるの?」
俺はメールを開く。
「『暇なんだけど』……だけ」
「え……それだけ?」
瀬名は目を丸くして俺に訊ねる。俺も実際意味がわからなかったので、小さく頷いた。
「……どう返信するの?」
「え……そうだな……」
返信……そのことを考えていなかった。というか、返信しなきゃいけないんだろうか……
「……返信しなくてよくないか?」
「え……それはダメでしょ」
瀬名が信じられないという顔で俺を見る。俺は仕方なくメールを打つことにした。
「……『今どこにいるんだ?』……これが無難じゃないか?」
瀬名にそう言うと瀬名も頷く。俺はメールを送信する。
と、瞬時に着信音がなる。瀬名が「え」と驚いた顔をする。
「……誰から?」
「あ」
俺は思わず立ち上がった。そして、窓の外を見る。
「……いる」
「え?」
瀬名も同じように窓の外を見る。校門の辺り……手を振る女子らしき人影があった。
「……佐田だ」
俺がそう言うと着信音がまた鳴った。俺はメールを見る。
「……いや、無理だろ」
携帯の画面を見て、俺はそう呟く。瀬名が不安そうに俺を見る。
「え……なんて言ってきたの?」
俺は黙って携帯の画面を瀬名に見せる。
画面には「ちょっと来て」という文字だけが映されていた。
「……行くの?」
まさか行かないよな、という顔で瀬名は俺を見る。しかし、俺は……
「……ちょっと行ってくるわ」
「え!? ちょっと、岸谷!?」
瀬名の言葉を背中に受けながら、俺は校門の方へ向かったのだった。




