つながりの話
そして、俺は学校の近くまでやってきてしまった。
無論……佐田も。俺は無言で佐田の方に振り返る。
「ん? 何?」
「……じゃあ、ここで」
俺がそう言うと佐田は少し寂しそうに微笑んだ後で、無理に笑顔を作る。
「うん。また、放課後」
佐田はそう言って手を振る。俺は何も言わずに校門に向かう。
見て見ぬふりをしている……自分でもそれがわかっていた。
佐田の今の状況は……良くない。間違いなく、佐田は逃げているだけだ。
俺への好意だって、単純に「自分に危害を与えない」人間を探しているだけ……そう思ってしまうのは、あまりにも残酷に思えた。
俺は校門への道で一度だけ振り返った。
佐田は……まだ俺のことを見ていた。俺は何もせず、携帯の画面に目を移す。
『汐美ちゃんと一緒に登校するの、楽しかった?』
邪悪な笑顔を、その文面から思い浮かべることができる。
宮野は、俺がどんな気持ちか理解していて、こんなメールを送ってくるわけで……とても俺には理解できなかった。
俺は返信することもせず、そのまま学校に向かう。
いつものように教室に着く。俺はつい、何も考えず、携帯を机の上に置いてしまった。
「あれ? 岸谷、携帯持ってたの?」
物珍しそうな声でそう言ってきたのは……瀬名だった。
「え……あ、ああ。まぁ、ほとんど使わなかったから……」
「えー。なんだよ。持っているなら教えてよ」
不満そうにそう言う瀬名。俺は……正直、ちょっと嫌だった。
携帯は……どう考えても人とのつながりを強くする。孤独を目指していた俺にとっては不要だったし、これからも不要……であるはずだったのだ。
「じゃあさ、番号とメアド、交換しようぜ」
「え……あー……すまん。その、方法が……」
俺がそう言うと瀬名は目を丸くしてから、小さく頷く。
「あ……ホントに、全然使ってなかったのね」
そう言われて俺は小さく頷いた。仕方がないので俺は瀬名に携帯を手渡す。
「よーし。これで……OK。はい」
瀬名は携帯を操作すると、俺に返してくれた。確かに新しいメアドが登録されていた。
「しかし……佐田さんのメアドも入っているんだ」
ニヤニヤしながらそういう瀬名。
「……なんだよ。悪いか」
「いや、別に? むしろ、良いことだと思うけど……授業中は携帯の着信音とか振動に気をつけるんだよ」
そういって、瀬名は席に戻っていってしまった。
俺は今一度携帯を見る。
これは、人とのつながりを強くする……
「つながり、か……」
その言葉で俺は佐田のことを思い出す。
それと同時に、宮野が俺に示してきた「事実」も。
俺は嫌な気分になりながら、携帯をポケットの中にしまいこんだのだった。




