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嘘の話

 そして、次の日は朝から最低な気分だった。


 未だに俺は、宮野との会話が信じられない……俺が会話していたのは、本当に宮野だったのだろうか。


 ……いや、多分本当に宮野だったのだろう。


 俺はどうすればいいかわからず思わず大きくため息をついてしまう。


 このこと……佐田には言えるわけがない。というか、それは宮野に「止められている」。


 宮野は俺に、宮野の本性を佐田に晒すのはダメだと言ってきた。


 なぜ、と聞いたら、そんなの当たり前だ、と詳しくは話さなかったが……実際、宮野の本性を佐田が知ったら……相当ショックだろう。


 もちろん、俺自身も宮野の話が……最悪な形で影響していた。


 思い出してしまったのだ……明確に。俺は佐田に地獄のような目に合わされたのだということを。


 こんな状態で佐田とどんな顔をして会えばいいのか……


「……普通の顔。そうだ。そうに決まっている」


 俺はそう言って、学校に行く準備をして、玄関を出る。


 玄関の扉を開けると、冷たさが頬を撫でる……秋も深まってきていて、少し先には冬の近づきさえ感じられるように鳴った。


「よっ」


 と、それとともに聞こえてくる声……家の門の前には……


「……佐田」


 俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに佐田は笑顔を浮かべる。


 ……大丈夫。今の佐田は、昔の佐田じゃない。


 俺は自分にそう言い聞かせて家の門を開く。


「ねぇ、私が言ったこと、覚えてる?」


 そう言われて俺はポケットから携帯を取り出す。


「え……それ……もしかして……」


「ああ。持ってる。携帯電話としてはほとんど使ってないだけで」


 信じられないという顔で佐田は俺を見る。実際その通りなのだから何も言えなかった。


「ふぅん……じゃあ、携帯、貸して」


「はぁ? なんで?」


 俺がそう反論するよりも先に、佐田は俺から携帯を取り上げ、すばやく操作する。


「……ん。これで、私のメアド、登録できたから」


 そう言って、佐田は携帯を返してくる。俺はメールの連絡先を確認する。


「お、おお……ありがとう」


「しかし、マジで使ってないんだね。メールの連絡先、お母さんとお父さんだけじゃん」


 苦笑いしながらそう言う佐田。俺は少し恥ずかしくなって顔をそむける。


 その時、携帯が振動する。


「ん? メール?」


「え……あ、ああ……母さんからだな」


「へぇ。お母さんとはメールするの?」


「まぁ……な」


 俺は適当にそう返事する。佐田は疑う素振りも見せず、俺のことを見ている。


「……まぁ、良かったじゃん。これからはメールの相手、お母さんとお父さんだけってことなくなるわけだし」


「え……なんで?」


 俺がそう言うと佐田は嬉しそうに笑った。


「だって、これからは私がメールしてあげるし」


 いたずらっぽい笑顔で、そう言う佐田。俺はなんだかどう返答すればいいかわからず、なんとなく携帯の画面を見る。


「……そろそろ学校行く時間だ」


「え? 何? 照れちゃったの? ホント、岸谷は面白いなぁ」


 嬉しそうにそう言う佐田に、俺はまさしく罪悪感を感じていた。


 なぜなら、俺は……佐田に嘘をついてしまったからだ。


 先程のメールは……母さんではない。


 佐田以外に俺の携帯のメアドを知っている相手……宮野知弦からのメールだったからだ。

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