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賭けの話

 いよいよ、俺も理解してきた。


 ……普通じゃない。宮野が今俺に言っていることは、普通じゃないのだ。


 そして、俺はこれ以上宮野の話を聞いてはいけない……それだけは理解できた。


 俺はゆっくりと視線を家の扉の方に向ける。家の玄関まで本当に後数メートル……このまま直行してしまえば……


「雅哉君?」


 俺が逃走経路を確認していることに気付いたのか、宮野は俺に話しかけてきた。


「話、終わってないよ?」


「……もう、いい。俺はお前の話は聞きたくない」


 俺がそう言うと宮野は嬉しそうな顔で俺を見る。俺はまたしても不吉な予感を覚えた。


「そっか……これを見ても?」


 そういって、宮野は俺に何かを見せてくる。それは……宮野の携帯だった。


「……それがどうした?」


「えっとね……ああ、あった。見てみて」


 そういって、俺に携帯を見せてくる宮野。そこには……画像が写っていた。


 パンツ一丁で、学校の廊下を歩いている……というより、歩かされている少年……


 周りには彼を見て爆笑する何人かの生徒達……


「あ……あぁ……」


 俺は画面から目が離せなくなる……携帯に写っている悲しそうな顔をした少年のことを、俺は覚えている。


「この写真……分かるよね?」


 宮野は得意げな顔で俺にそう言う。


 分かる……分かるに決まっている。


 そこに写っている少年……は紛れもなく俺だ。中学生の頃、毎日が地獄だった時の俺である。


 俺は思わず気持ちの悪さが胃の奥からこみ上げてくる。覚えている……覚えているはずだった。でも……


「大丈夫? 雅哉君?」


 本気で心配しているような素振りで、宮野は俺にそう言う。


「……これ……俺の……」


 俺はなんとか言葉を絞り出しながら宮野に訊ねる。


 宮野はニッコリと微笑む。


「汐美ちゃん、私のこと、ホントに親友だと思っているからねぇ……中学生の頃、『面白い写真が撮れた』って言って、毎日のように私に送ってきてんだ」


 面白い、写真……その言葉を聞いて俺はとてつもなく嫌な気分になる。


 忘れていた……思い出したくなかったドス黒い気分がまるで堰を切ったように溢れ出してくる。


 俺はあまりの気分の悪さに、思わず少しかがみ込んでしまった。


「や……やめてくれ……俺は、もう……」


 すると宮野は俺の頭を優しく撫でる。


 まるで優しい少女に頭を撫でられて、安心するかのような錯覚を受けながらも、俺は宮野を見る。


「大丈夫……私はね、この写真を毎日見て、とても罪悪感を覚えていたんだよ……私の親友は、私のことを好きだった男の子になんて酷いことをしているんだろう、って……ヒヒッ……本当に……フ……フフッ……」


 嗤うのを我慢しながら、宮野はそう言う。そして、確信したような顔で宮野は俺を見る。


「ね? 思い出したでしょ? 汐美ちゃんが雅哉君にしたこと」


「……で、でも、佐田は……」


 俺が懸命に抗うと、宮野はめんどくさうな顔で俺を見た。しかし、少し立つと、嬉しそうな顔で俺を見る。


「……じゃあさ、私と一つ、賭けをしてみない?」


「え……何を?」


 俺がそう訊ねると、宮野はまた、俺を、まるで舐め回すような視線で俺を見る。


「雅哉君が……本当に汐美ちゃんのこと、好きになれるかどうかを、ね?」

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