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虚像と実像の話

 さすがの俺も……何も言えなかった。


 というより、かなりショックを受けていた。


 宮野は……俺の想像していたような女の子じゃなかった。


 それを、彼女は喜々として俺に告白してきている。


 俺はその行為に対して一体どう反応すればいいのか……全く理解できていなかったのである。


「どう? びっくりした?」


 宮野はいきなり俺にそう聞いてきた。冬が近づく冷たさを頬に感じて、俺は我に返る。


「……そうだな。驚いた」


「だよね? フフッ……で、雅哉君、どうするの?」


「は? ……どうするって……」


「私の事、汐美ちゃんに言うわけ?」


 そう言われて俺は一瞬戸惑った。その後で、今一度宮野のことを見る。


「……アイツは、お前のその……そういう部分知らないのか?」


「当たり前でしょ? だって、汐美ちゃんは親友なんだよ? それなのに、彼女は私の本性を知らない……それって、一番罪悪感を感じさせてくれることじゃない? だから、教えてないんだ」


 嬉しそうにそう言う宮野の言うことを、俺は理解できなかった。


「……お前、佐田はお前のこと……親友だって……」


「知っているよ。あの子は親友だからこそ、私に雅哉君との出来事を自慢げにメールを送ってくるんだよ。私が親友だからこそ、自分が昔イジメている立場だったのに、自分がイジメられるようになったからって、私に助けを求めてくるんだよ……フッ……フフッ……」


 何がおかしいのか……宮野はまるで悪魔のように微笑んでいた。


「……お前だって、そうなんだろ?」


 俺は少し恐怖すら感じてそう訊ねた。すると、宮野はわかっていたかのように小さう頷く。


「え? ああ、あれね。フッ……フフッ……すごーく、悪い事をしたと思っているよ? だから、とっても最高の気分だったんだけど……でもねぇ……私がイジメられるわけ、ないじゃない?」


 宮野は自信満々でそう言った。俺はさすがにドン引きしてしまった。


「お前……まさか、あれって……」


「うん。ぜーんぶ、嘘だよ」


 何事もなかったかのようにそう言う宮野。俺は何も言えなくなってしまった。


 言われてみれば、あの後宮野は何事もなかったかのように学校に行っている……それなのに、佐田は未だに……


「じゃあ、お前が俺に謝ってきたのも……全部……」


「ああ、それは本当だよ。汐美ちゃんが言い出したから、私も一度雅哉君に謝るのもどうかなって思ったけど……実際謝ってみるとなんてことはないね。それもそうか。罪悪感を感じなくなっちゃうわけだしね」


 俺はもう何も言いたくなかった。いますぐ佐田に会って、宮野の本性をぶちまけてたかった。


 ……いや、これも全部ウソで……ダメだ。佐田の言葉以上に嘘とは思えない。


 第一、佐田と違って、今の宮野が俺に嘘をつく必要性が全く感じられない。


 だから、俺は一つの結論にたどり着いた。


 今まで俺が大嫌いだった初恋の人、宮野知弦は虚像で……今目の前で、おおよそ普通の人間では言い出さないような最低のことを言っている宮野が、実像なのだ、と。

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