落胆する話
「……へ?」
俺は……さすがに間抜けな声を出してしまった。それを見て、佐田は嬉しそうに俺のことを見ている。
「フフッ……変わらないわねぇ……アンタのその間抜けな顔」
嬉しそうにそう言う佐田。どういうことだ……これは……佐田は一体どういうつもりで……
そして、俺の中に、佐田がかつて言っていた一つの言葉が思い浮かぶ。
アンタが困る事をもっとしてあげる……という言葉だった。
「……お前、どうしてそんな……」
俺がやっとの思いで佐田にそう訊ねると佐田は、漸く聞いてくれたかという表情で俺を見る。
「言ったでしょ? アンタの困ること、もっとしてあげるって」
……やはりそうだった。佐田は、そのつもりで……
「で、その様子だとアンタ困っているみたいね。知弦になんて言われたの?」
「……宮野は……俺が嘘をついた、って」
俺がそう言うと佐田は少し考え込むようにした後で、ポンと手を叩く。
「……ああ! なるほどね……ひひっ……そっか……知弦カワイソー……アンタも酷い男だね」
おかしくて仕方がないという感じで笑い、目にたまった涙を拭う佐田。俺は自分の中でふつふつと怒りが湧いてくるのを感じていた。
「……お前、こうなることを予想して、宮野に……」
「うん。そうだよ。知弦はきっとアンタに私とのこと聞くって思ってたけど……そっかぁ。アンタ、知弦に嘘ついちゃったんだぁ……で? 知弦は怒っているわけ?」
佐田にそう言われると俺は小さく頷いた。佐田は満足そうに勝手に頷いている。
宮野が俺と佐田がキスしていたのは……何処かで見ていたのではない。そもそも、佐田が情報を漏らしていたのだ。
でも……一つ疑問が残った。
「……なぁ、お前……俺が困るように……こんなことしたんだよな?」
俺がそう言うと佐田はキョトンとした顔で俺を見る。
「うん。そうだけど?」
「……だったら、別に宮野に嘘を教えるだけでよかったんじゃなかったのか? 別にわざわざ俺と本当にキスする必要はなかっただろ……」
「……はぁ?」
佐田が少し不機嫌そうに俺にそう言った。
俺は佐田の表情の変化に少し驚いてしまう。
「え……なにそれ。知弦に嘘を教えて、アンタが困るようにすればよかったってこと? いや、分かっているって。そんなの。でも、なんでアンタとキスしない方がよかった、みたいなこと言うわけ?」
「え……だって、お前は……自殺しようとしたのも、俺にキスしたのも……俺が宮野の件で困るようにしたかったからで……だったらまじでやる必要なかっただろ……」
「え……ちょっと待って。自殺しようとしたのも、キスしたのも、全部フリで……嘘だった、って言いたいの?」
佐田は……信じられないという顔で俺を見ている。それでも俺は酷い話ではあるが……信用できなかった。
今までの話を総合すれば佐田は俺が宮野の件で困るようにしたかっただけだろうし……
「……違うのか?」
俺がそう言うと佐田はショックを受けた顔になった。そして、大きくため息を付いて、遠くを見るかのように目を細める。
「……あー。確かにね。思い出した。アンタも覚えているだろうけど……中学の頃、アンタにラブレター届いたよね」




