性悪な話
俺は家から出た。
……背後からの気配は感じない。でも……どこからか、見ているのだろうか。
いやいや……宮野に限ってそんなことないだろう。そうだ。宮野はそんなことをするようなヤツじゃない。
第一、なんでそんなことをする? 宮野は……どうして怒っているんだ?
佐田と俺がキスしたことを知っているから? でも、あれは、別に俺が進んでやったことじゃない。
それなのに、なぜ……
どうにも落ち着かない……俺は度々背後を振り返る。
宮野の姿は見えない……当たり前だ。俺が佐田と会うことなんてわかるはずもない。
ふと、考えたのはニュースでやっているような盗撮とか、盗聴だ。
でも……さすがにあり得ないだろう。宮野はそんなことをスルようなヤツじゃないし、そもそも宮野は俺の家に来たことがないじゃないか。
不安で段々思考がおかしくなっている……そう思いながら俺は佐田と待ち合わせたファミレスに向かう。
ファミレスまでは十分程度……それが酷く長い時間に思えながらも、俺はなんとかファミレスに着いた。
「あ! こっち!」
ファミレスに着くなり、佐田が手を振り俺に合図する。俺は小さく頭を下げると、佐田の方に向っていった。
「珍しいね。アンタの方から誘ってくるなんて」
注文もせずに、俺はとりあえず、佐田の向かいの席に座った。
少しなぜか嬉しそうにそういう佐田……俺はどう切り出したらいいのか悩んでいた。
「……あー……うん。まぁ……佐田に聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと? 何?」
佐田が興味津々で俺にそう訊ねる。俺は少し躊躇ったが……やはり、聞いてみることにした。
おそらく佐田は少し不機嫌に成ると思うが……確認はしておきたかった。
「……お前さぁ、宮野に……電話で何か喋ったりした?」
俺がそう訊ねると、首を傾げて佐田は俺を見る。そして「なんで?」という顔のままに俺の方を見ていた。
「あ……いや、そうだよな……すまん。変なこと聞いて――」
「言ったけど」
佐田の言葉に、俺は耳を疑った。俺は今一度佐田の方を見る。
「……え? 言った、って……何を?」
「何って、全部」
「……全部?」
すると、佐田は得意げな顔で嬉しそうにしながら、俺のことを見る。
「だから、私が自殺しようとしたこととか、それをアンタが止めに来たこととか……あ! 後、私がアンタにキスしたことも……ぜーんぶ言ったよ」
そういって佐田はニンマリと目を細める。その目は……俺に今まで苦痛を味わわせてきた、佐田汐美の目つきそのものだった。




