わけのわからない話
それから、俺と佐田は並んで歩いていた。
俺は……正直、早く家にたどり着いてくれないか……それだけを心の中で祈っていた。
何より、時折、佐田がなぜか俺の顔をチラチラと見てくるのである。
一体何がしたいのか……そして、結局、佐田は何が目的なのかは未だに理解できなかった。
「ねぇ」
まただ。佐田は唐突に俺に話を振り始めた。
俺は少し間を置いてから、ゆっくりと顔を佐田の方に向ける。
「……何?」
「えっと……一つ聞いてもいいかな?」
と、佐田はいきなり立ち止まって俺の方を見る。
「なんだよ……何を聞きたいんだ?」
「その……今、嫌な気分?」
佐田は少し恥ずかしそうにしながら俺にそう言った。嫌な気分……ああ、そういえば佐田は「俺に嫌な気分を味わわせるために俺につきまとう」だったか……
というか、別に俺は今の気持ちをそのまま言うことにした。
「……ああ、嫌な気分だよ」
俺がそう言うと佐田は少し意外そうな顔をした後で、なぜか落ち込んだような顔で俺を見る。
「そっか……嫌なんだ……」
「え……いやいや。だって、お前、俺に嫌がってほしいから付きまとっているんだよな?」
俺がそう言うと佐田は我に返ったようにハッとして小さく咳払いする。
「そ……そうだった……あー……うん。それなら、いいや」
「……なんなんだよ。まったく……」
「え……でもさぁ……そんなに嫌?」
と、なぜか佐田は懇願するような顔で俺にそう言ってくる。こいつは……俺に一体どういう答えを求めているのかよくわからない。
「……俺がそうだ、って言ったら、お前はもう会話を終わらせてくれるのか?」
俺がそう言うと佐田は困り顔で俺を見る。困りたいのは、俺の方である。
「そういうことじゃ……ないんだけど……」
「……わかった。じゃあ、もうこの話は終わりだ。それに、もうそろそろ俺の家だ。で……お前は俺の家まで付いてくるつもりなのか?」
俺がそう言うと佐田は苦笑いしながら首を横に振る。
「んなわけないじゃん……また明日ね」
そういって佐田は俺の家とは逆方向へ走っていってしまった。
……なんなんだ。アイツは。そんな漠然としたモヤモヤ感だけが、俺の中に残ったのであった。




