信じられない話
そして、その日も学校では何事もなかった。
学校では……というわけであって、どう考えてもこの後、何かが起こる気がしたのである。
「岸谷」
と、瀬名の声が聞こえてきた。俺はそちらに顔を向ける。
「なんだよ」
俺がそう言うと、瀬名は窓の外を指差す。
「……まさか、気付いてない?」
瀬名にそう言われて、俺は窓の外を見る。
窓の外……というか、瀬名は校門の方を指差しているようだった。
そして、校門の方には……
「……いるな」
人影が見える……というか、ウチの学校ではない制服を来たその少女は、明らかに他の学生に混じっていても目立って見えた。
「いるな……どうすんの?」
瀬名にそう言われても……俺にはどうしようもない。いや、答えは単純だし、俺がこれからやることも至極単純なのだ。
「……別に。俺は帰るだけだぞ」
そう言って俺はそのまま教室を出る。瀬名もなぜか俺の後についてきた。
そして、俺たちは何も言わずにそのまま昇降口を出て、校門の方へと向かう。
実際目で見てわかったが……やはり、佐田だった。
佐田の方も俺のことを確認したらしい。なぜか少し恥ずかしそうにしながら、俺に向って手を振ってくる。
「……あれ。佐田さん……なんだよな?」
瀬名が、信じられないという顔で俺にそう言う。俺も……正直、ちょっと佐田の対応が怖かった。
「……行くぞ」
俺は瀬名の問いかけには返答せず、そのまま歩いて行く。佐田との距離が縮まっていく……そして、ついに、俺と瀬名は校門までやってきてしまった。
「よっ。お疲れ」
佐田が笑顔でそう言う。俺は……反応に困ってしまった。
「……えっと、佐田さん。その……今日はどうしたの?」
俺よりも先に瀬名の方が佐田に話しかけた。すると、佐田は先程までの笑顔ではなく、鋭い目つきで瀬名の方を見る。
「……アンタに関係あんの?」
「え、いや、ないです」
佐田に凄まれ、瀬名は怯えた様子で俺を見る。そして、申し訳なさそうに笑いながら、瀬名は俺から離れていく。
「あー……俺、今日用事あるから……じゃ、じゃあね、岸谷!」
そして、案の定、瀬名は逃げていってしまった……全く頼りにならないやつである。
「ふぅ……これで、お邪魔虫はいなくなったね」
嬉しそうにそう言う佐田。俺はただ、小さくため息を付いた。
「……俺、今日は帰るからな」
そう言うと、不満そうな顔もせずに、佐田も頷く。
「うん。じゃあ、途中まで、ね」
佐田にそう言われて、俺はさすがに「帰ってくれ」とも言えず、そのままにしておいた。
俺が歩きだすと、佐田も歩調を合せて結局、一緒に帰るハメになってしまったのだった。




