付いてくる話
その日は俺はなんだかもやもやとした気分のまま眠りについた。
佐田のこと、そして、佐田がしてきたこと……俺の中で何かが変わってしまった気さえした。
というか、俺は佐田とキス……したんだよな。
絶対に自分には縁がないと思っていた。しかも、相手はあの佐田汐美……
……本当に現実なのだろうか。
そもそも、佐田はなんで俺にキスなんてしてきた? 確かにいじめられているとは言っていたが……それが本当かは信じられない。
もしかすると、アイツはまた俺を地獄に落とすためにあんな芝居をうっているのかも……といっても芝居にしては頑張りすぎた。
とまぁ、心の何処かで俺は佐田を信用しきれなかった。実際明日から何が起こるかも俺はまったく想像できなかったのである。
そして、朝になる。母さんは既に家の中にいなかった。俺は適当に朝食を済ませ、そのまま家を出る。
「よっ!」
家を出た瞬間だった。まるで目覚まし時計のような目の覚める光景が目の前にあった。
「……お前、何やってんの?」
家の前にいたのは……佐田だった。
信じられないことだが、いるのだ。既に制服はウチの学校とは違う物を着ている。
「何って……会いに来たんだけど」
「いや……俺、学校行くんだけど」
「うん。見れば分かる」
「……俺とお前、学校違うんだけど」
そう言うと佐田は苦笑いしながら俺のことを見る。
「い~じゃん。途中まで一緒に……ね?」
ニヤニヤしながらそう言う佐田……やはり昨日のことは嘘だったのだろうか。
俺は仕方なく玄関から出て、そのまま学校に向かう。何も言わなくても佐田は俺に付いてきた。
「……ちょっと」
学校まで後5分……佐田は未だに付いていている。
「ん? 何?」
「……違う学校の制服の女子がここらへんにいたら、変に思われるぞ」
「え……あー……確かに」
俺がそう言うと佐田は納得してくれたようだった。俺はそのまま歩いて行く。
「じゃ。放課後ね」
俺がそのまま行こうとしていると、佐田がそう言った。俺は佐田の方に振り返る。
佐田はニヤニヤ……というか、ニコニコしていた。まるで俺を家から見送りきたような……そんな笑顔。
俺は何も言わずにそのまま学校に行った。
そして、なんとなく理解していた。
おそらく、放課後まで、アイツは学校の前で待っているのだろう、と。




