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最低な話

とても気まずい状態で、俺と佐田は並んで歩く。


 というか……間違いなく、俺の方が気まずかった。


 佐田が先程、ファミレスで言ったセリフ……あれはなんというか……よく意味がわからなかったが……


 車が車道を行く音だけが、俺と佐田の隣から聞こえてくる。


 俺は……一体何をしているんだ。


 どうして佐田と一緒にいる? 佐田といる必要なんてないのに。


 今すぐ佐田と別れるべきだ。だって、俺は佐田が嫌いなはずなんだから。


 はず……はずってなんだ。


 俺は今一度佐田の方を見てみる。佐田も俺の方を見ていた。


 間違いなく、俺は佐田を恨んでいた。今でも恨んでいる。恨んでいなければいけないと思っている。


「ねぇ」


 俺は返事をしないで、ただ佐田の事を見ている。佐田は少し微笑んで俺のことを見ている。


 車道を行く車の音が止まる。赤信号のせいだろうか……なんとなくだが、俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「私さ、自分のこと、勝手な女だと思っているよ」


 そういって、佐田は風に揺れる髪を撫でる。俺は、その指先を思わず目で追ってしまった。


「さんざん酷いことしてきて、それで今時分が不味い立場になったからって、助けを求めている……最低じゃない?」


 同意を求めるようにそういう佐田。俺は……小さく頷いた。


「でしょ? 良かった。私はさっき言ったとおり……アンタにはずっと、私の事を憎んでいてほしいわけ」


 そう言うと、佐田は一気に俺の方に近づいてきた。そして、そのまま俺の肩に手を回す。


 あまりのことに俺は何もできなかった。俺と佐田は唇を重ね合わせる……つまりは、キスをする形となってしまった。


 信じられないことだが、路上で、しかも、相手はあの佐田汐美と。


 暫くの間、佐田は俺から離れなかった。俺が我に返ってようやく、ほのかな香水の香りに気付くと同時に、佐田は俺から離れた。


「どう? 最低でしょ?」


 佐田はそう言ってニンマリと微笑む。その目には……微かに涙が溜まっていた。


「大嫌いな相手にこんなことされる気分ってどう? 最低?」


「お……おい、佐田……お前――」


「私は! 最低だから……これから、アンタが困ること、もっとしてあげる! それが私とアンタの関係なんだから!」


 既に車が走り出していた。その騒音をかき消すくらいに、佐田は大きな声でそう言った。


「……だから、明日から、よろしくね」


 小さな声でそういって、佐田は俺に背を向けた。


 そして、そのまま走っていってしまう。


 俺は……動くことも、何か声をかけることもできず、ただその後姿を見ていることしかできなかったのだった。

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