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災厄の話

 その日も、何もなく、俺は授業を適当に聞き流し、放課後になった。


 一日の終わり……今日はさすがに宮野の家に行かずに家に帰ろうと思った。


「岸谷」


 と、瀬名の声が聞こえてきた。俺は声のした方に顔を向ける。


「ああ、瀬名。どうした?」


「今日は宮野さんの家、行かないのか?」


 ニヤニヤとしながらそういう瀬名。俺は少しムッとしてしまったが……瀬名がそう思うくらいに、俺は毎度宮野の家に行っているということか、と思い、むしろ恥ずかしい気持ちになった。


「……まぁ、今日は、行かない」


「そっか。えっと、今日はちょっと俺も用事があるから一緒に帰れないんだけど……佐田さんのこと、ホント、気をつけたほうが良いぞ」


「……瀬名はどうしてそう思うんだ? 別に佐田にわざわざ会いに行く必要なんてないんじゃないのか?」


 俺がそう言うと、瀬名は目を丸くして俺を見る。そして、まるで小さい子供に言い聞かせるように先を続ける。


「岸谷……俺も色々そういうなんというか……男女間の話ってのは聞いてきたんだよ。それで……今のお前は、お前が意識するとしないとに拘らず、面倒な状況に巻き込まれているんだよ」


「面倒? 別にそんなことないと思うけど……」


「巻き込まれているんだって……たぶん」


 何か言いたそうだったが、瀬名はそれ以上は何も言わなかった。


「……とにかく、気をつけたほうが良いぞ。わかった?」


「……よくわからないけど、わかった」


 いまいち俺に言いたいことが伝わらなかったようで、もどかしそうな顔をしながら瀬名は俺に背を向けて去っていってしまった。


 瀬名も……良い奴だと思うが……よくわからないやつである。


 俺はそんなことを考えながら、一人自宅に帰っていた。


 家に帰っても別に面倒なことなんて何もなかった。いつも通り夕食を一人ですまし、そろそろ風呂にでも入ろうと思っていた。


 その矢先だった。


 プルルルル……電話が鳴り響く。


「……こんな時間になんだ?」


 どう考えたって両親でもないし、知り合い……瀬名はこんな時間に電話をかけてこない。


 ……というか、セールスとかの電話とかかもしれない。俺はそう思ってほうっておくことにした。


 そして、呼び出し音が響いた後で、電話は留守電に切り替わった。


「……あははっ。やっぱりね。私の電話じゃ、出ないんだ」


 ……聞き覚えのある声……俺はすぐにそれが誰の声かわかった。


 俺に地獄を味わわせてきた声……間違いなかった。


 でも……なんだか様子が変だった。声の調子に違和感があるというか……


 俺は慌てて受話器を取る。


「……佐田か?」


 沈黙……電話の向こうからは水が流れるような……清らかな音が聞こえてきた。佐田はどこか外にいるようだった。


 そして、それから小さな笑い声聞こえてきた。


「フフッ……そう。アンタが世界で一番嫌いな存在の佐田汐美ですよ」


 馬鹿にした調子で佐田は俺にそう言う。俺は大きくため息をついた。


「なんだ……いきなり電話してきて……今何時だと思ってんだよ」


「……それ、知弦にも同じこと言えるの?」


 と、佐田がいきなり変な事を言ってきた。俺は思わず面食らってしまう。


「はぁ? お前何行って……」


「あの時だって! このくらいの時間に知弦は電話してきてた……アンタはあの時も知弦にそう言ったわけ!?」


 少し怒り調子で佐田は俺にそう言う。なんだかよくわからないが……佐田は怒っているようである。


「お前……なんだよ。いきなり怒って……大体なんで今そんな話……」


「……アンタ、知弦がアンタの思っている通りの女だと思っているわけ?」


「……はぁ? 何言って……」


「知弦はね、いつもズルいんだよ……自分は悪くない、でも、他人にはよく思われたいって……だから私にばっかり頼って……ズルいよ……ホント……」


 佐田の声がなぜか小さくなっていく。さすがに段々心配になってきた。


「お、おい……大丈夫か?」


 俺がそう言うと佐田は電話の向こうで大きくため息を付いた。


「……岸谷。悪かったわね。今まで」


「はぁ? なんだよ、今度は急に……お前、ホントに――」


「私、これから死ぬから」


 そういって、電話が切れた。


 俺は呆然としたまま、ツーツーと、無機質な音が流れる受話器を手にしている。


 そして、それからゆっくりと受話器を戻した。


「……なるほど。こういうことか」


 瀬名の言っていることを俺は思い出し、急いで家から飛び出したのだった。

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