暗い一面の話
俺はしばらく動けなかった。
今喋っていたのは……間違いなく、宮野と佐田だ。
そして、佐田がいなくなってから、宮野は、俺が聞いたことのないような低い声で……確かに、俺が聞いた通りの言葉を言った。
宮野は……佐田の親友。そう言っていたはずだ。
それなのに、宮野は……
俺は気を取り直して、今一度宮野の家の方を見る。
既に宮野は玄関を閉めている……俺は迷った。
宮野の家に行くべきか……やめるべきか。
あんな言葉を聞いてしまった以上、俺は宮野に……開いづらくなってしまった。
間違いなく今会うと、先程のことが気になってしまうだろう。
だからといって、会わずに帰るのも……
「……よし。行こう」
俺は意を決して、宮野の家へと歩き出した。そして、家の前に来ると、チャイムをゆっくりと押す。
と、宮野が玄関の方へ歩いてくる音が聞こえてきた。そして、そのまま玄関が開く。
「あ……雅哉君」
嬉しそうにそう言う宮野……やはり、いつも通りの宮野だ。
俺が聞いた冷たい言葉は、聞き間違えだったのではないか……そう感じさせる程に、優しげな笑みを宮野は浮かべている。
「よぉ……ごめん、また来て」
「フフッ……いつでも大歓迎だよ。さぁ、入って」
笑顔の宮野に促されるままに、俺は靴を脱いで玄関へと上がる。
「あ、そうだ。雅哉君」
と、俺が靴を脱いだ後で、宮野が話しかけてきた。
「ん? なんだ?」
「その……ここに来るまで、誰かと会った?」
宮野は笑顔のままに俺にそう聞いてきた。
誰か……宮野が何を聞きたいのか、俺には理解できた。
要は、佐田に会ったか……そう聞きたいのだろう。
そして、それを聞いた宮野の目は……俺が今まで見たことのない程に、どこか暗い色をしている。
「……いや、会ってない」
俺はゆっくりと宮野にそう返事する。
宮野は何も言わないままに俺のことを見ている。なぜだか、不思議な緊張感が、俺と宮野の間に流れていた。
「……そう。じゃあ、リビングに行こう」
そういって、宮野は俺の横を通って、リビングに向かっていく。
直感的にだが……家に来たのは、間違いだった。
俺はその時、そう思ったのだった。




