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険悪な話

 結局、その日も俺は宮野の家に向かった。


 我ながら行き過ぎかな、と思ったが……それ以外には特にやることもないので、俺は行くしかなかったのである。


 行く途中、瀬名の言った言葉が頭の中に浮かんでいる。


 佐田のこと……アイツがどうなろうが俺に関係ないが……確かに気になりはする。


 アイツが急に俺に会いに来なくなったのは……確かに理由は知りたい。


 知ってどうするのかと聞かれると微妙なところだが……それでもアイツが今どうしているかくらいは、確かに気になる。


 もっとも、積極的に俺の方から佐田に会いに行くというのは……なんだか気が進まないが。


 そうこうしているうちに、宮野の家が近づいてきた。俺は佐田のことは……後で考えることにした。


 そうしようと思っていた矢先だった。


「……知弦さぁ。アンタ……それまじで言ってんの?」


 聞き覚えのある声……紛れもない、それは、佐田の声だった。


 佐田の声は酷く不機嫌そうだ。そして、話している相手は、おそらく……


「汐美ちゃん……私はそういう意味で言ったんじゃ……」


 やはり、宮野の声も聞こえ来てきた。


 どうやら、玄関先で宮野と佐田が話しているようだった。


「じゃあ、どういう意味? アンタでしょ、先に私に言ってきたのは。それで、私はアンタに岸谷に謝ったらいいんじゃない、って言ったよ? 私は嫌だったけど。でも……それで岸谷と仲直りしたら、もう私は必要無いって言いたいわけでしょ?」


 佐田は怒り調子でそう言っていた。先に言ってきた……そうか。やはり宮野が俺に謝るように言い出したのか。


 でも、俺に謝ればいいといったのは……佐田だったのか。意外な事実だった。


「そ、そういうわけじゃないよ……ただ、もう汐美ちゃんも悩む必要はないんじゃないかな、って……雅哉君もきっともう汐美ちゃんに謝ってほしいとか……そういうことは考えてないと思うし……」


 宮野が少し遠慮がちにそう言う。確かに……その通りではある。今更佐田に謝ってほしいとか……そういう気持ちは俺にはない。


「そんなことはわかっているって。けど、それを知弦に言われる筋合いはないから」


 佐田ははっきりとそういう。なんだか……とても険悪な感じだった。


「……じゃあ、私は帰るから」


 と、いきなり佐田がそう言い出した。俺はどうすればいいかわからず、慌てて、宮野の家の近くの電柱の影に隠れる。


 佐田は……俺のいる方向とは別の方向に去っていってしまった。宮野は、その後ろ姿を心配そうに見ている。


 それから、佐田が完全にいなくなってから、宮野は一人で小さくため息を付いた。


「……ホント、めんどくさいなぁ。あの子」


 そして、間違いなく、宮野はそう言ったのだ。


 いつもの優しそうな宮野からは想像できないほど、冷たい調子で。


 俺はそれを聞いて、聞いてはいけない言葉を聞いてしまったのだと、確信したのだった。

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