見えない壁の話
それから俺は時たま、宮野の家に行くようになってしまった。
無論、毎日ではないが、一週間に一回程度……宮野も、俺が来ると、笑顔で迎えてくれる。
正直、迷惑ではないかと思ったし、実際、迷惑ではないかと聞いてみたのだが、全然そんなことはないと俺に言ってくれた。
だが……どことなく、俺と宮野の間には見えない壁というか……境界線みたいなのがあった。
それは、俺の方が作っている壁でもあり、宮野の方が作っている壁でもあった。
だから、家に行ってもどことなく他人行儀というか……まぁ、他人なのだが。
実際、俺は未だに宮野のことを信用はしていない。宮野への許しは、完全に同情から来るものであったわけだし……
そもそも、俺はまだ宮野のことを完全には許せていない……そんな気がしていた。
そして、佐田は、あの日以来俺の前に姿を現さない。
連絡も寄越してこないし、俺に会いに来ることもなくなった……こちらに関しては、俺としてはありがたかったのだけれど。
そんなことを考えながら、俺は窓の外を見ていた。
既に校庭の木々の葉は段々とオレンジ色になってきて、完全に衣替えの時期となった。
「岸谷、まーた宮野さんのこと?」
声をかけてきたのは……瀬名だった。コイツ以外、俺に学校で話しかけてくる奴なんて、そもそもいないのだが。
「……別に。宮野のことなんか考えてない」
「え? 俺はただ、宮野さんのこと、って聞いただけで、それを考えているかどうかは聞いてないんだけどなぁ」
からかうようにそういう瀬名。俺は思わず瀬名を睨んでしまった。
「あ、あはは……それはそうと、最近は二人共校門の前に来ないね」
「……宮野は、ちょっと調子が悪いんだ。だから、来てない」
「佐田さんは?」
そう言われて、俺は戸惑った。
「……さぁ?」
「さぁ、って……会ってないの? 佐田さんと」
目を丸くして驚く瀬名。
「ああ、そうだけど」
「それって、どれくらい?」
「え……そうだな……もう、2週間くらい?」
俺がそう言うと瀬名はあちゃー、と言わんばかりに気の毒そうな顔をする。
「岸谷……悪いことは言わないから、佐田さんに会いに行って方がいいよ」
「はぁ? なんで?」
「なんで、って……岸谷さぁ。宮野さんが心配なのはわかるけど……俺にはどうも、佐田さんにも、少し気を遣ったほうがいいんじゃないかな、って思うよ?」
それだけ言って、瀬名は自分の席に戻っていった。
「……なんで、あんな奴に気を使わなきゃならないんだよ」
一人納得できない気持ちになりながら、それでも、さすがに佐田に会ったほうがいいのかもしれない、と俺は思ったのだった。




