つまらない話
「何? 化物にでも会ったような顔をして」
ニヤニヤとしながら俺の事を見る佐田。茶色い髪がオレンジ色の光を反射している。
「あ……当たり前だろ。お前……なんでここにいるんだよ。一週間後って……」
「そう。確かに一週間後に、って言った。でも、気が変わったわけ。だから、ここにいるの。それとも何? 私に見られると不味いことでも?」
「ま、不味いことは……ないけど……」
俺がそう言うと佐田は眉間に皺を寄せて俺を睨む。
「……あったでしょうが。何勝手に知弦と仲直りしてんのよ」
「はぁ? お前、なんでそれ……」
「見てたから。あれだけ笑顔でさよならしてれば仲直りしたってわかるでしょ」
呆れ顔でそう言う佐田。いやいや見てたって……じゃあ、何か? 佐田は、ずっと宮野の家の前で待っていた……ってわけか?
「ちょっと。話聞いてんの?」
「え……あ、ああ……でも、何か問題があるのか? 俺が宮野と仲直りすることが」
俺がそう言うと佐田は大きくため息をつく。
「だって、つまんないじゃん」
そして、短く端的に、佐田はそう言った。
「……は? え……つまんない?」
「うん。だって、アンタがいつまでも昔のことで知弦のことを親の仇みたいに思っているのを見るのが面白かったのに……あ~、もう仲直りしちゃったって、つまんないの」
俺は佐田が何を言っているのか理解して、段々と怒りが湧き出てきた。
コイツは……昔から何も変わっていないのだと、改めて実感させられる。
「……だけど、お前には仲直りするな、なんて言われてないぞ」
「はぁ? そんなの言わなくてもわかるでしょ? ったく……そんなだからアンタはダメなのよ」
馬鹿にした調子で佐田はそう言う。佐田が女の子でなければ、とっくに殴りかかっているところだ。
「……お前、なんなんだよ。別に関係ないだろ。お前には」
「何言ってんの。あるでしょ。知弦は私の親友なんだから」
「だったら、お前が宮野の面倒見ろよ。なのに、お前、ちょっと前は面倒くさいって言ってたよな。お前……ホントに宮野の親友なのかよ?」
そう言うと佐田は黙ってしまった。先程までのニヤニヤ顔ではなく、真剣な顔で俺のことを見ている。
「……だって、めんどくさいじゃん。先に言い出したのは……私の方だったのに……」
佐田はなぜか恨みがましそうに俺のことを見ている。よくわからないが、佐田は怒っているようである。
「なんだよ……怒るなら怒れよ」
「……もういい。アンタは勝手に知弦の家に行けばいいじゃん。でも、忘れるんじゃないわよ。アンタの嫌な思い出は私が持っているんだからね」
そういって携帯を見せびらかすように取り出す佐田。俺は何も言わずに背中を向ける。
「……やっぱり、アイツのことは嫌いだ」
佐田から十分離れた後で、俺は一人で小さく呟いたのだった。




