悲しい話
「……結局、来てしまった」
最初に喋る言葉も思いつかないままに、俺は宮野の家にやってきてしまった。
チャイムの前に立ち尽くしたままで、俺は次の挙動ができなかった。
宮野……大丈夫なのだろうか。
ああは言ったものの、さすがにあの時の宮野は正常ではなかったし……それが完全に改善されたのかどうかもわからない。
しかし、チャイムの前で立ち尽くしていても仕方がない。
俺は思い切ってチャイムを押した。
ピンポーン、という間延びした音が響く。しかし、返事は……ない。
「……出ない、か」
しかし、佐田と来た時はすぐに帰ってしまったが……俺は少し待つことにした。
すると、いきなり玄関の扉がガチャリと開く。
「え」
俺は思わず声を漏らしてしまった。
「あ……雅哉……君?」
扉を開けて姿を表したのは……宮野だった。
ピンク色の可愛らしいパジャマを着て、宮野は俺のことを不思議そうに見ている。
少しやつれたように見えるが……優しそうな表情は変わらなかった。
「あ……よ、よぉ。宮野」
俺は思わずそんな言葉しか口から出せなかった。宮野はキョトンとしたままで俺を見ている。
「あ……え、えっと……あれから……大丈夫か?」
俺がそう言うと宮野は我に返って俺を見る。
「あ……う、うん。ごめんね、この前は……」
申し訳なさそうに頭を下げる宮野。その姿を見ていると、なんだか……俺はとても悲しい気分になってきてしまった。
俺が今まで憎んでいた初恋の相手は……こんなにも脆い存在だったのか、と。
今少しでも外圧がかかれば、折れてしまう……そんな存在に、今の宮野は見える。
「あ、ああ……大丈夫なら良いんだ。じゃあ、俺はこれで」
そういって、俺は背中を向ける。もう帰ろう。そして……あまり近づかないようにしよう。
佐田の奴はあんなことを言っていたが……俺なんかが来ても仕方ない。宮野に余計な負担を与えるだけだ。
だから、もう関わらない方が――
「待って!」
と、背後から宮野の大きな声が聞こえてきた。俺は驚いて振り返る。
宮野は潤んだ瞳で俺のことを見ている。
「あ……ちょっとだけ、お話……させて」
宮野は押し出すようにそう言った。俺は……今一度宮野の家の方に足を進めたのだった。




