容赦ない話
そして、次の日。
いよいよ秋めいてきたのか、段々と暑さは影を潜めてきていた。
俺は相変わらず特に何も考えずに、教室の窓の外を見ている。
「で、どうだった?」
瀬名が声をかけてくる。声をかけてくる前から、俺の周りで起きている出来事に興味津々なのがわかる調子だった。
「別に。何もなかった」
俺はなるべく、やつの期待を破壊してやろうと、つまらない回答をした。瀬名は実際残念そうな顔で俺を見る。
「え……何も?」
「ああ、何も」
俺がそう言うと瀬名は少し考え込んでから、先を続ける。
「いやいや……嘘でしょ?」
嘘……いや、実際何もなかったのだ。本当に。
「ないよ。何も。今日は宮野の家に行くけど」
「え……佐田さんと一緒に?」
「いや、佐田は来ない。お前は来るか?」
そう言うと瀬名はまたしても考え込むような素振りを見せたが、すぐに首を横に振る。
「なんだ。来ないのか。この前は来たがっていたじゃないか」
「あー……まぁ、よく考えたんだけど、俺、全然関係ないし……こうやって岸谷の話を聞いているだけの方がポジション的にはいいのかなぁ、って……」
申し訳なさそうにそういう瀬名。
今更ながら、瀬名はそんなことに気付いたようである。
「そうか。じゃあ、俺一人で行ってくる」
「でも……大丈夫なの?」
と、瀬名が心配そうな顔で俺にそう聞いてくる。
「何が?」
「いや……だって、宮野さん、話だけ聞いているとかなり不安定みたいだし……大丈夫?」
確かに……俺一人で行って良いものかどうかは……正直、疑問だ。
しかし、それで宮野がどうこうなろうが……俺には関係ない。
あくまで今日は宮野の様子を見に行くだけ。
間違っても「自殺なんて真似をしようとした宮野を慰めに行く」なんていう目的は俺の中には微塵もない。
「別に。大丈夫だろ」
「……岸谷、案外お前、容赦ないね」
瀬名は驚いた顔でそう言う。容赦ない……そういうつもりもないのだが、実際にはそう見えるだろうか。
でも、俺はこれまで容赦されたことがなかった……その容赦のない仕打ちをしてきたのは、宮野というか……佐田の方ではあるのだが。
そうこうしている間にチャイムがなり、瀬名も自分の席に戻っていく。
俺は宮野の家に行って、仮に宮野と会ったら、一体最初にどう切り出そうか……そんな些細なことを、なんとなく考えていたりしたのだった。




