引き下がる話
そして、俺と佐田は宮野の家の前にやってきた。
昨日のことを考えると……なんだかとても入りにくかった。
「入るよ」
しかし、佐田はそんなことを考えていないようで、昨日と同じように何事もなかったのように宮野の家の敷地の中に入っていく。
「お、おいおい……」
俺が言っても聞くことはなく、そのままチャイムを押した。
ピンポーン、とマヌケな音が響く。そして、それから数分……待ったが家の中から反応はない。
「……出てこないね」
そう言うと佐田は俺の方に戻ってくる。
「じゃあ、帰ろうか」
「……は? え……宮野は?」
俺がそう訊ねると、佐田は何を言っているのだという顔で俺のことを見る。
「いや、出てこないし」
「出てこないって……お前、鍵のある場所知っているだろ?」
「うん。でも、チャイム鳴らして出てこないのに、無理矢理入るのは不味いでしょ」
……じゃあ、昨日のことはどうなんだと俺は思ったが……それ以上は聞かないでおいた。
「あー。それにしても、私お腹減っちゃったなぁ……ファミレス、又行きたいんですけど」
「は? お前なぁ……宮野に会わないなら俺は帰るぞ」
「いいの? 携帯」
そう言うと勝ち誇った顔で佐田は俺に携帯を見せてくる。それを思い出して俺は大きくため息をつく。
「……分かった。けど、奢りはなしだからな」
「わかってるよ。私も2日連続で奢らせるほど、性格悪くないって」
……佐田ならばあり得ると思ったが、奢りは避けられたようだった。
それにしても、佐田の奴……あまりにもあっさり引き下がりすぎだろ。
てっきり宮野の家に乗り込んでいくものだと思ったいたのだが……
「ちょっと。何? 行かないの?」
「え……あ、ああ……ホントにいいのか? 宮野のこと」
俺がそう言うと佐田は少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「何? そんなに心配なら、アンタだけで家の中入ってみたら?」
そういって佐田は歩きだしてしまった。
もちろん、そんなことできるわけないので、俺は仕方なく、佐田の背中を追って、宮野の家を後にしたのだった。




