本当に憎い話
俺と佐田はそのまま宮野の家に行くわけだが……正直、相当居心地が悪かった。
そもそも……佐田との会話がないものだから、俺たちは二人で歩いているのに無言のままだったのである。
佐田の方もまるで俺に喋りかけようとしてこない……コイツは平気なのだろうか。
かといって、俺の方から話しかけるのは絶対に嫌だ。俺にとってコイツは仇なのだから。
そう考えると……そんなやつと並んで歩いているのは相当不思議な状況なのだが。
「岸谷さぁ」
と、いきなり佐田が俺に話しかけてきた。意外だったので俺は少し驚く。
「え……何?」
「アンタさぁ。平気なわけ?」
「……は? 何が?」
俺がそう返事すると、佐田は少し俺から目を逸らして話を続ける。
「だって、私って、アンタにとって一番憎い奴なんじゃないの?」
「え……あ、ああ……まぁ……」
「え? 違うの?」
……違わなくはない。
しかし、俺自身……俺にとって佐田と宮野、どっちが憎いかと聞かれると……難しいのだ。
かといって現在の宮野は、自殺を図るほど俺に対して負い目を感じている……だったら、より恨むべきなのは、まったく反省をしていない俺の隣にいる佐田の方だと思うが。
「……まぁ、そうだな」
「でしょ? だったら、なんで一緒に並んで歩いているわけ?」
「え……お前の方が勝手にやってきたんだろうが……今更何言ってんだ」
「拒否すればいいじゃん。帰れ、とかさ。でも、アンタはそういう拒否もしない……何? またイジメられたいわけ?」
ニヤニヤシながらそう言う佐田。コイツが何を言いたいかわからないが……実際その通りではあると思った。
「……お前は何? 拒否されたいわけ?」
「は? そういうこと言ってんじゃないんだけどなぁ……私が聞きたいのは、アンタにとってホントに憎いのは誰だったのかって聞いてんの」
佐田は少し苛ついた様子でそう言う。
そう言われると……答えは決まってくる。
「そりゃあ……お前だろ」
そう言うと佐田はキョトンとした顔をした後で、なぜか笑いを抑えるようにクックッと笑っていた。
「……これで満足かよ」
「あ……あはは……うん。良かった。そうだよね……あはは……」
佐田はなぜかそれからしばらく涙さえ浮かべる程に笑っていた。
相変わらずこいつのことはよくわからないが……わかりたくもなかったので、俺は宮野の家につくまで佐田のことはほうっておくことにした。




