不味い話
「それで、そのまま帰ってきたわけ?」
「……まぁ、あっちが勝手に帰ったからな」
次の日。またしても俺は瀬名を話していた。
話しているのは……昨日の話だ。
俺は本当は話したくなかったのだが、瀬名がどうしても話してほしいとうるさいので、俺は仕方なく話すことにしたのである。
「しかし……すごいことがあったもんだねぇ」
瀬名はまるで他人事……いや、実際他人事なのだが……そういって、頷いている。
「すごいというか……面倒なことになったんだが」
「あはは。確かに。でも、すごいねぇ、岸谷は。あんな可愛い女の子二人に囲まれて、全然幸せじゃないんだから」
マジマジと不思議そうにそういう瀬名。俺としては、そんな話を嬉しそうに聞いている瀬名の方が不思議だった。
「……とにかく、俺はこれから数日、宮野の家に行かないといけないらしい」
「なるほどねぇ……宮野さんも心配だけど……佐田さんも心配だね」
「は? なんで?」
と、俺が聞き返すと瀬名は驚いた顔で俺を見る。
「え……今の話で、どっちが不味いかって……佐田さんの方じゃない?」
「はぁ? でも、宮野はカッターまで持ち出してきたんだぞ? それに佐田は何も通常運転だろ」
すると、瀬名はチッチッとわざとらしく人差し指を左右に振る。
「……岸谷。それは違うよ。考えてもみてよ。佐田さんはずっと岸谷のこと、イジメてたんだよね? それなのに、なんで今更になって岸谷に構っているのさ?」
「それは……宮野に言われたから?」
「でも、佐田さんは宮野さんのこと『殺す』って言ったんでしょ? なんだかおかしくない?」
言われてみれば……というか、終始佐田が何をしたいのか、俺には理解不能なのだが。
「……知らない。知りたくもないしな」
俺がそう言うと瀬名は真剣な顔で俺のことを見てくる。
「岸谷さぁ……たしかに、岸谷も過去に辛い事があったんだと思うよ。でも……それは岸谷以外にとっても辛い過去だったんじゃない?」
瀬名がそう言うと同時に始業のチャイムが鳴った。
「あ。じゃあ、放課後、俺も一緒に行くよ」
「はぁ? なんで?」
「え……ダメ?」
そう言われると拒否する理由も見当たらないことに気づく。
「……好きにしろよ」
「よし! じゃあね!」
そういって瀬名は自分の席に戻っていった。
なんだかよくわからないことばかり……そんなもやもやとした気分だけが、俺の中に残ったのだった。




