意味不明な話
そして、その後、俺はマジで佐田にファミレスで奢らされるハメになった。
佐田は腹が減ったと言っていたが……実際に頼んだのはパフェとかアイスとか……別に腹は減っていないようだった。
「ふぅ……満足満足」
嬉しそうに佐田はそう言う。その反対で、俺の財布は完全に不満足だった。
「……で、まさかとは思うが、俺に奢らせるためだけにファミレスに来たのか?」
その可能性も無きにしもあらず……一応覚悟はしていた。
「ん? あはは。さすがにそれはないって」
そういって佐田は俺が持ってきたコーラを口に含む。
「……じゃあ、何?」
「いや。別にいくつか質問がしたかったから」
「質問? お前……宮野のことは関係ないのか?」
俺がそう言うと佐田は少し目線を逸した後で今一度俺の方を見る。
「アンタさぁ。アンタが転校してきた時、誰が一番最初に話しかけたか覚えている?」
佐田はいきなりそんな意味不明の質問をしてきた。一番最初……そんなの覚えているわけもない。
「なんだよそれ……よく覚えてないが……宮野じゃないのか?」
「あ……ふぅん。やっぱりそうなんだ」
佐田は思った通りと言わんばかりに呆れた様子で俺を見る。一体コイツの真意がなんなのか……俺には理解できない。
「……質問って、それだけか」
「は? いくつかあるって言ってんじゃん。そうだなぁ。アンタさぁ、宮野のこと、好きだったでしょ?」
佐田は軽い感じでそう言ってきた。俺は少し戸惑ったが、嘘をついても仕方ないと思い、佐田の方を見る。
「……ああ。そうだよ。好きだった」
俺がそう言うと佐田はニヤニヤとしながら俺を見る。
「へぇ。認めるんだ」
「ああ……だけど、今は……嫌いだ」
「なんで?」
「なんでって……アイツは俺のことを……」
「裏切ったって言いたいわけ? そんなことないでしょ」
そういって佐田は今一度、コーラを口の中に流し込む。
「別に知弦はアンタのこと、私みたいにイジメて楽しもうなんて思ったことないでしょ」
「……だけど、アイツは……」
「何? 守ってほしかったって言いたいわけ? あの状況で他の奴ら全員敵に回しても、アンタの味方でいてほしかった? それは、随分自分勝手なんじゃないの?」
佐田は軽い調子でそう言う。正論なのだが……コイツに言われたくない。
「……俺がこんな風に考える元凶のお前に……そんなこと言われたくないんだけど」
「あはは~。確かに。でも、アンタホントはわかってんでしょ? 知弦は悪くないって」
「え……わ、悪くないっていうか……それは……」
「悪くないでしょ。私の事を恨むっていうなら分かるけど、知弦のことを恨むのはお門違いじゃない?」
俺は黙った。宮野は悪くない……それを認めてしまうと、今までの俺の行動が思い出しただけで恥ずかしいものになる。
いや、認めるつもりはない。そもそも、俺は宮野と今目の前にいる佐田のせいで死ぬような思いをいた……認められるわけがないのである。
「……お前、何が言いたいんだよ。っていうか、さっきの話はなんだったんだよ」
「え? ああ、知弦を殺すって話? うん。覚えているよ。だから、今関係ある話をしてんじゃん」
「どう聞いても関係なさそうなんだが……お前は俺に何をさせようとしているんだ?」
俺が訊ねると佐田は自身の毛先を指で弄びながら俺を見る。
「とりあえずさぁ。アンタ、しばらくは知弦の御見舞にいってあげてよ」
「……はぁ? それが……お前が俺にさせたいこと?」
「うん。嫌なわけ? だったら、写真ばら撒くけど?」
佐田はそう言って今一度俺に携帯を見せる。俺は大きくため息をつく。
「……わかったよ。意味わかんないけど……お前に従うよ」
「よろしい。ちゃんとアンタが毎日御見舞に来てるか、抜き打ちでチェックするから。じゃ、ごちそうさん」
そういって佐田は立ち上がり、そのまま店の出口へと向かってしまった。
席に取り残された俺は呆然とその後ろ姿を見る。
「……アイツ、何がしたいんだ?」
俺は完全に狐につままれたような状態で首をかしげることしかできないのであった。




