誘いの話
「……は? お前……何言ってんだ……?」
聞き間違えだと思った。
しかし、たしかに佐田はそういったように聞こえた。
「おもちゃ」と。
「ん? だから、おもちゃ、だって。いやねぇ、私も最近高校に入ってから退屈しててさぁ。なーんか面白いことないかなぁ、って思ってたの。で、見つけちゃったわけ」
しかし、佐田は信じられないことを平気で言っている。
俺の胸元にムカムカとした嫌な感じが湧き上がってきた。
「お前……だ、だから、なんだよ。まさか……宮野を……」
俺がそう言うと、佐田はニンマリと嬉しそうに微笑む俺の事を見る。
「……岸谷さぁ。アンタ、カッターで自殺しようとしている知弦見て、どう思った?」
「え……どうって……不快だったに決まってんだろ……あんなことされちゃ……」
「へぇ。私はさぁ、何やってんのかなぁ、この子、って思ったよ」
佐田は淡々とそう続ける。俺は佐田が一体何を言っているのか理解するので精一杯だった。
「……馬鹿だと思った、ってことか?」
「まぁね。だって、別に死ぬ必要なんてないじゃない? それでも死にたいなら別に止めないけど……」
さすがに俺はドン引きだった。信じられない思いをしながら、佐田と会話を続ける。
「お前……それでも宮野の親友かよ」
俺がそう言うと佐田はキョトンとした顔で俺を見る。
「うん。そうだよ。別に親友だからって、知弦のこと全肯定するわけじゃないんですけど」
「だからって……アイツは……」
なんだか話していて俺も混乱してしまった。
俺は宮野のことを許せないはずなのに……それ以上に、佐田が言っていることはどうにも腑に落ちなかった。
「……で、アンタに一つ相談なんだけど」
「え……な、なんだよ……」
「アンタ、知弦のこと憎いんでしょ? だったらさ……ホントに知弦のこと、殺してみない?」
そう言う佐田の目は……真剣そのものだった。とても冗談を言っているようには思えないほどに。




