平穏の話
教室に戻ると、眼鏡の彼がチャラいグループと一緒にいた。
チャラいグループの奴らの手には一人ひとりジュースが握られている。
それが何を意味するのかは……俺にも理解できた。
おそらく、金など払っていないのだろう。全て負担するのは、眼鏡の彼だ。
……別にかわいそうなどとは思わない。それが、彼が選んだ居場所なのだ。
彼自身だって、自分がパシリに使われていることは重々承知なのだろう。
だけど、そこから抜け出そうとしない。抜け出せないのかもしれないが……彼はおそらく進んでそのポジションにいるのだ。
だったら、かわいそうとか感じる必要なんてないじゃないか。
俺はそう思いながら再び窓の外を見る。
……少なくとも、俺よりはマシなのだ。
小学校から中学まで、俺は自身のポジションを選ぶことができなかった。
だからこそ、今俺は孤独というポジションを選んだ。
そして、その特権を享受している。誰にも邪魔されず、穏やかな日々を過ごせるという特権を。
そう思っていると、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
チャラいグループも解散し、と、眼鏡の彼がなぜか俺の方を見ていた。
……俺のことなど気にするな。俺だって、お前のことなんて気にしていないんだから。
俺はすぐに顔を逸らす。眼鏡の彼も席に戻っていったようだった。
結局、その日の午後も退屈な授業が続いた。そして、放課後になると、俺はそそくさと帰りの支度をする。
眼鏡の彼は相変わらずチャラいグループと関わっていたが……俺には関係がないのでほうっておくことにした。
そのまま学校を出て、帰宅の途につく。
今日も何もない一日……素晴らしい一日だった。
俺は既に自身の一日を振り返りながら、家へと向かう道の曲がり角を曲がった。
その時の俺は知らなかった。
俺の日常が平穏だったのは、その日のその時間までだった、ということを。