深淵の話
「着いた……」
そして、それから十分程して、俺と佐田は一軒の家にたどり着いた。
「ここが……宮野の家……」
しかし……家には明かりが付いていない。
誰も家の中にはいないようだった。
佐田は戸惑うことなく、家の玄関へと向かっていく。
そして、扉のノブを掴む。
「……開かない、か」
そんなこと当たり前だと言わんばかりに俺はその様子を見ていた。しかし、佐田は何を思ったか、玄関の扉の脇においてある。植木鉢をずらす。
「……まだ、あったか。ありがとう、知弦のお母さん」
「え……それって……」
「これ、私がよく遊びに来てた時は、一人でも勝手に入っていいって。知弦のお母さんが……まだ残してくれてたんだ」
「……宮野って、両親は?」
「……お父さんとお母さんは知弦が小さい時に離婚してる。だから、知弦とお母さんの二人暮らし」
「そ、そうだったのか……」
俺と会話している間にも、佐田は鍵を鍵穴に差し込み、宮野の家の玄関の扉をあけてしまった。
「……知弦? いるの?」
家の中に向かって玄関から佐田が呼びかける。しかし、返事はない。
「……行くわよ」
そういって、佐田は家の中に入っていく。俺も仕方ないのでそれに続く。
玄関から家の中まで、生活感を感じさせない程に、整理されていた。そのまま俺と佐田はどんどん家の中に入っていく。
そして、リビングらしき所にたどり着いた。明かりは付いていない。
「……何、あれ」
そういって、佐田が何かを指差す。見ると、テーブルの上に何かが無造作に広げられている。
俺と佐田は少し躊躇ったが、そのままテーブルの上を見る。
「これは……アルバム?」
見るとそれはアルバムのようだった。どうやら、小学校から中学校までの写真……それも、なぜか集合写真の頁が開かれている。
「なんで、集合写真なんて……」
「……見てたんだ」
佐田はそういって写真を見つめる。
「え……何を?」
「……私や知弦自身……そして、アンタも」
佐田の言うとおり、たしかに集合写真なので、俺も佐田も、宮野も載っている。
「でも、なんでそんなこと……」
と、俺はアルバムが置かれた場所から少し離れた所に、小さな紙切れが置いてあるのを見た。
紙切れは表面には何も書かれていない。しかし、裏側には何か書かれているようで、その部分が机に伏せられているので、まるで隠されているかのようである。
俺はふと、その紙切れを掴み、裏側を見る。
「あ」
俺は思わずそれを見て、そして、声を漏らすと同時に、全身の毛が総毛立った。
「え……何?」
怪訝そうな佐田に俺は、震える指先で紙切れの文字が書かれている部分を見せる。
「……知弦! やめなさい! 馬鹿な真似するのは!」
その瞬間、佐田は絶叫しながらリビングから飛び出していった。
俺は今一度紙切れの文面を見る。
そこには『お母さん、汐美ちゃん、雅哉君、本当にごめんなさい』と……まるで遺書のように書かれていたからである。
そして、その瞬間だった。
「汐美ちゃん、来ないで!」
家の奥から、そんな宮野の絶叫が聞こえてきたのだった。