面倒くさい話
「……なんでお前がここにいるの」
俺はものすごく嫌な気分になりながら佐田に訊ねる。
「いやぁ、だって、昨日岸谷がいきなり帰っちゃうからさぁ。アンタが知弦に対して謝るのかどうかちゃんと聞いてなかったし」
そういって佐田はニヤニヤしている。
……どうやら相変わらずコイツは俺のことをからかって楽しんでいるだけらしい。
俺はそう思うとなんだかとても腹立たしい気分になった。
「……だから、言っただろ。俺は謝る気はないって。お前らのことなんて……嫌いだって」
「はぁ? アンタさぁ……こっちが下手に出てればちょっと調子乗り過ぎなんじゃない? いじめられっ子だったくせに」
佐田はそういって俺のことを睨む。その目……俺がかつて嫌という程見てきた目だ。
コイツは……宮野と違ってマジで俺に対して謝罪の気持ちとか、そういうのは持ち合わせていないようである。もっとも、それは昨日本人がそう言っていたのだが。
俺と佐田は睨み合う。そのまましばらくの間沈黙が続く。
「……あー……ちょっといいかな?」
と、そこへ瀬名が割って入ってきた。佐田が鋭い瞳で瀬名のことを睨む。
「何? アンタ。関係ないでしょ?」
「あー……いや。そうなんだけど……佐田さん……はさぁ。宮野さんからはなんて言われたの?」
瀬名がそう言うと佐田は面倒くさそうな顔で瀬名を見る。
「……あー。はいはい。確かにね。知弦には言われたよ。岸谷と喧嘩するな、って」
そういって佐田は今一度鋭い瞳で俺のことを見る。
「……さっさと知弦に謝ってくれないかな。私も……いい加減、めんどくさいんだよね」
捨て台詞のようにそれだけ言うと、佐田は俺に背中を向けて行ってしまった。
「……あの子、かわいいよね……怖いけど」
その後姿を見ながら、瀬名が面白そうにそう言ったのだった。