別人の話
結局、その日も俺の隣には……瀬名がいた。
「……お前さぁ」
「え? 何?」
「……暇なの?」
思わず俺は瀬名に訊ねてしまった。
すると、瀬名は別に気を悪くした様子もないようで、ニンマリと俺に微笑む。
「いやぁ……まぁ、暇かな」
「……他にいるだろ? 友達」
「いや……いないね」
と、意外な言葉に俺は思わず驚いてしまった。瀬名は別に恥ずかしげもなくそういう。
「俺はさ……今まで何事もないように生きてきたわけなんだよね。だから、何事もなかったし、特に辛いこともなかった……でも、その分俺にはなにもない。友達って言える存在もいない……って感じかな」
予想外の発言に、俺は思わず次の言葉を失ってしまった。
てっきり他に友達がいるのになぜ俺にくっついてきているのかと疑問だったのだが……こんなことを言われてしまうと俺は反論しにくい。
「だからさ、俺、岸谷と友達になろうと思うんだよね」
「……はぁ?」
しかし、次に出ていた言葉で、俺は思わず驚いてしまった。
「え……なにそれ?」
「いや、だって。岸谷みたいなタイプは初めて出会ったし……それに周りの人達も面白い人達ばっかりじゃん」
瀬名は嬉しそうにそう言う。
コイツ……見た目よりもどこかおかしいやつなのかもしれない。少し気を着けたほうがいいかもしれない。
「あ。そろそろ交差点だ」
瀬名にそう言われて俺は宮野が待っているであろう交差点に近づいてきたことを認識する。
そして、交差点に出ると……
「……いない」
なんと、いなかった。
それまではずっといた宮野知弦が……そこにはいなかったのである。
「え……いないね」
瀬名も絶句している。
……いや。いないならいないで、いいのだ。問題ない。
これでようやく宮野も俺につきまとうのをやめてくれるというわけだ。
俺もこれで一安心……
「おーい。岸谷」
と、後ろから聞こえてきた声で俺の安心は即座に絶望に変わる。
俺はゆっくりと背後に振り返る。
「よっ。何してんの?」
「……佐田」
そこに立っていたのは……昨日ファミレスで会ったばかりの佐田なのであった。




