混迷を極める話
「あ……雅哉君……」
気まずそうな顔で宮野は俺から顔を逸らす。
俺はゆっくりと宮野の方に近づいていく。
宮野は思い詰めたような様子で俺の事を見ていた。
「……お前……なんでここに?」
俺がそう訊ねると、宮野は少し躊躇っていたが、それから話し始める。
「……その……汐美ちゃんが私に、雅哉くんと話を着けてくるって……私心配になって……その……」
「……なるほど。それでここまで来てたまたま俺と会っちゃった……そういうわけね」
俺がそう言うと宮野は小さく頷いた。思わず俺はため息を付いてしまう。
「……あのさぁ。1つ聞いても良い?」
「え……な、何?」
「……宮野は俺にどうしてもらいたいの? 佐田まで巻き込んで……そもそもアイツは俺に謝る気なんて毛頭ないみたいじゃないか……宮野はアイツをどうして呼び出したわけ?」
俺がそう言うと宮野は悲しそうな顔で俺を見る。
そして、それから申し訳なさそうに話を続ける。
「その……私としては……汐美ちゃんに……謝ってほしくて……」
「……はぁ? 佐田に……え? 謝ってほしいって……俺に?」
俺がそう言うと宮野は困ったような顔をしていたが、観念したかのように小さく頷いた。
怒りを通り越して……呆れてしまった。
宮野が佐田を巻き込んだ理由……それがようやくわかった。わかりたくはなかったが。
「……つまり、お前は……佐田にも自分と同じように、俺をイジメたことを謝ってほしかった……そういうわけね」
「そ、その……雅哉君。私……」
「……いい加減にしろよ」
俺は思わずそう言ってしまった。宮野は怯えた様子で俺のことを見る。
「……誰が頼んだよ。そんなこと」
「え……そ、それは……」
「……いいか? 前も言ったけど……俺はもうお前や佐田のこと……思い出したくもないんだよ。それなのにわざわざ古傷をえぐるような真似しやがって……もしかして、楽しんでやっているわけ?」
「ち、違う! そんなこと……」
宮野は必死に否定するが……俺にとってはそうとしか思えないわけで。
俺としても困ってしまった。
宮野が一体どうしたいのか、益々わからなくなってしまったからである。
「……まぁ、お前のやろうとしていることはわかった。だが、それをやる意味がわからないわけで……1つ云えるのは、俺はそんなこと望んでないってこと。わかった?」
俺がそう言うと宮野は小さく頷いた。
おそらく言ったところで本当に分かっているのかは怪しいところであるが。
「あ、そうだ」
俺はそこまで言ってから、先程佐田が言っていたことを思い出す。
「佐田にさ、お前のこと、許してくれ、って言われたんだよね」
俺がそう言うと、宮野は驚いた顔で俺を見る。
それから俺は少し間を置いてから、宮野にはっきりと言う。
「まぁ……許す気なんて、ないけどね」
俺がそう言うと、最初からわかっていたようで、宮野は少し視線を落とした。
「……雅哉くん」
「ん? 何?」
と、しばらくの沈黙の後、宮野が俺に話しかけてくる。
「その……明日も、あの交差点で、待っていていいかな?」
宮野はその部分だけははっきりとそう言った。俺は何も言い返す気力も失せてしまった。
「……勝手にすれば」
それだけ言って俺は宮野をそこに放置して家への帰路へと足を踏み出したのだった。