勝手な話
「え……な、何?」
俺は思わず聞き返してしまった。しかし、佐田は表情を変えなかった。
「だから……どうして、知弦のことを許してあげないのか聞いているわけ」
……意味がわからなかった。
なぜ……それを佐田に聞かれなければいけないのか。
そもそも、佐田だって、俺にとって許せない相手なのだ。
今こうしてファミレスには付いてきているが、許したわけじゃない。
「……えっと、あのさ。俺は……お前のことも許してないんだけど」
「ん? ああ、私の事? 別にいいよ。私は許してもらうなんて思ってないし」
と、佐田はまったく悪びれる様子もなくそう言った。
さすがに俺も拍子抜けしてしまう。
「え……な、なにそれ?」
「んー……だって、私は悪い子としているって自覚はあったし、それでいてそれをやめなかった。で、私自身、岸谷に恨まれるだろうなぁ、って理解してた。だから、私はアンタに許してもらおうなんて思ってないから」
そういって、佐田は店員が持ってきたアイスをスプーンで掬うと口に頬張る。
……そう言われてしまうと、俺は何も言えなくなってしまった。
つまり、佐田は俺に対して悪いとは思っているが……
「……俺に謝ろうとかそういうのはないわけ?」
俺がそう言うと佐田はキョトンとした顔で俺を見る。
「謝って欲しいの?」
……言うと思ったが、やはり言った。俺は何も言えなくなってしまった。
やはり佐田は……俺がサタンと呼んでいただけのことはあるヤツのようである。
「……別に」
「じゃあ、知弦には? 謝ってほしかった?」
佐田にそう聞かれて俺は困ってしまった。
俺は……宮野に謝って欲しかったのか? 裏切って悪かった、と。
そして、実際宮野は俺に謝った。だけど、俺は宮野のことを許したくない……というか、許していない。
「……別に」
俺は思わず佐田にそう言ってしまった。佐田はそれを聞いて小さく頷いた。
「だったら、もういいんじゃないの?」
……もう、いい?
もういいって……それじゃあ、俺の今までの苦しみはなんだったんだ?
佐田にとってはそうかもしれないが……俺にはそんな風には片付けられない。
最初から宮野が現れなければ、俺だってこんな気持ちにはならなかったんだろうが……宮野が俺につきまとっている以上、何らかの対処をしなければいけないのだ。
そして、その一番解決法が宮野を許すこと……
「……良くないよ」
俺は小さい声でそう言った。
佐田にもそれは聞こえたらしく、困り顔で俺を見ていた。
しかし、俺は佐田を見る……なぜ、俺に哀れみの視線を向ける?
悪いのはお前や宮野なのに……
そう思っていると段々腹が立ってきた。俺は思わずそのまま立ち上がる。
「俺……帰るわ」
「へ? ちょ……待ちなさいよ、お金どうすんの? というか、アンタ、知弦のことは――」
そう言われたので、俺は二人分のアイスとドリンクバー代を机の上に置く。
「……お前や宮野のことなんて知るか。お前も宮野も……俺は大嫌いだ」
とてつもなく格好悪かったが、俺は代金とそんな捨て台詞を残して、ファミレスを出て行った。