用件の話
「えっと……このアイスと、ドリンクバーで。アンタは?」
「……じゃあ、同じヤツ」
俺は思わずそう言ってしまってから後悔した。
ドリンクバーなんて頼んだら長居してしまうではないか……しかし、既に店員は注文を受けて行ってしまった。後戻りはできない。
「あ、じゃあ、私取ってきてあげるよ。アンタ何がいい?」
「……コーヒー」
「え? 持ってくる時熱いじゃん。冷たいのでいいでしょ?」
「……じゃあ、烏龍茶」
そう言うと、佐田は本当にドリンクバーに行ってしまった。まさか本当に取りに行くとは思わなかったが……
……そもそも、佐田は一体何を考えているのか。
ここまできて俺と一緒にファミレスに来て……
正直、一刻も早く帰りたい。佐田の用件などどうでもいい。
いっそ帰ってしまうか? 出口はドリンクバーと反対の方向にある。今なら佐田に気付かれずに出ていけるが……どうする?
「おまたせー」
そんなことを考えている間に、佐田は帰ってきてしまった。
俺は仕方なく烏龍茶を受け取る。
「あ……ありがとう」
「どういたしまして。しかし……夏は終わったっていうのにまだ暑いよねー」
そう言いながら佐田は持ってきたコーラをストローで吸い上げる。
俺は烏龍茶を口に運んでから小さくため息をつく。
……切りださなくてはいけない。このままだとダラダラとこの佐田との時間が続いてしまう。
それならばいっそ、俺の方から――
「アンタさ」
そう言おうとした時、先手を取られてしまった。
「え……な、何?」
すると、佐田は鋭い目つきで俺を見る。何か怒らせるようなことをしたかと思い、俺は思わずドキリとする。
「なんで、知弦のこと、許してあげないの?」
「……へ?」
佐田の口から出てきたのは、俺の予想外の言葉なのであった。




