油断できない話
もちろん、行かないという選択肢は存在していた。
そして、行かない方が得策であるということも理解できていた。
だが……気になった。
俺は今の今まで……つまり、小学校から今までだが、佐田とまともに話したことがない。
いつもアイツは俺に対するイジメの扇動者だったし……何より、俺自身、佐田は俺のことを嫌っていると思っていた。
そんな佐田がわざわざ電話をかけてきた……無論、危険性はあるが、それ以上に興味深いのだ。
「……仕方ない」
俺はそう思って家を出ることにした。
いつも宮野と会う交差点まではほとんど十分……このまま歩けば佐田の指定した通りの時間に着く。
しかし……果たして大丈夫なのだろうか。
アイツが俺に手酷いイジメをしてきたというのは事実だ。変わらない過去である。
それなのに、いきなりの呼び出し……ほいほい行ってしまっていいものなのだろうか。
俺はそう思いながらも、結局、佐田が指定した交差点にやってきてしまった。
「……いる」
車が行きかいする道路を挟んで向こう……黒いジャージ姿にサンダルという、いかにもヤンキーっぽい風貌の茶髪少女がそこにいた。
「あ。おーい」
佐田は俺に気付いたようで、手を振ってくる。
信号が青になったので、俺は佐田のいる方へと交差点を歩いて行った。
「悪いね。こんな時間に呼び出して」
「……別に」
佐田はニヤニヤ笑いで俺を見ている。
きっと……馬鹿にしているに違いない。
結局、女の子に呼び出されればやってくるのだ、と。それがたとえ、どんなに嫌いな相手でも。
……こう考えると、我ながら結構情けない感じであった。
「えっとさ、少し話したいからさ。近くのファミレスでも行かない?」
「え……お前と?」
俺は思わずそう言ってから後悔してしまった。しかし、佐田は別に気を悪くした様子はなく、小さく頷く。
「うん。私と。まぁ、岸谷にとっては嫌だろうけど……どうせ暇でしょ?」
そう言われてしまうと、俺は何も言い返せなかった。
その場の勢いで思わず小さく頷いてしまう。
「じゃあ、行こっか」
そういって、佐田は歩き出した。俺もその後に続く。
……一体コイツはどういうつもりで俺を呼び出したのか。
佐田に対する警戒心はこの時点ではまったく解除できない状態なのであった。




