呆然とする話
中心的人物といっても、佐田が直接指示を出していたわけではない。
佐田は扇動者というか……煽り役だった。
だから、直接的に佐田に暴力を振られたことはない。
むしろ、佐田が思いつきで俺にプロレス技をかけると面白いんじゃないか、とか言うと、男子が俺にプロレス技をかける……
そういう意味では間接的に暴力を振られているのかもしれないが。
いずれにしても、宮野と同じく、小学校からの因縁の相手に、俺は再会してしまったのだった。
「……え。あれも、岸谷の知り合い?」
一人だけ完全に部外者の瀬名が不思議そうに訊ねる。
すると、佐田はギロリと瀬名を睨む。相変わらず目つきは悪い……それこそ、俺がヤツのことをサタンと呼んでいた所以でも有る。
「そうだけど……文句あるの?」
「え、あ……ないです」
佐田に凄まれると、瀬名は黙ってしまった。
そして、佐田は今度は俺の方を見てくる。
「キモ谷。アンタ、相変わらずね……なんというか、暗―い感じ? ホント、私、アンタのこと苦手だわ」
なぜかそんなことを言われる。既に過去において聞き飽きる程言われたセリフなので俺は別に傷つくことさえできなかった。
「なんで、お前がここにいるんだ?」
今度は俺が言う番だった。そう言うと、佐田は面倒くさそうに茶髪をかきむしる。
「別に。アンタに関係ないでしょ」
すると、宮野が不安そうに佐田の肩を叩く。
「汐美ちゃん……話が違うよ……」
そんな態度の佐田に、宮野がそう言う。
佐田はわざとらしく大きくため息をつく。
「知弦……アンタ、どうかしてるよ。中学卒業する辺りからそうだったけど……私達は悪くないの。アイツが悪いの。ね?」
佐田は何か宮野に言い聞かせるようにそう言っている。
アイツというのは……たぶん俺のことなんだろうが。
「だから、知弦ももう気にすることないの! 私と違う高校になって不安なのはわかるけど……ね?」
そういって、ポンと宮野の肩を叩く。
言われて気付いたが、たしかに宮野と佐田の制服は違うものだった。
まぁ、佐田は頭悪かったし……宮野と同じ高校に行くのは無理があったのだろう。
宮野は何も言わずに、佐田を俺を交互に見ている。
俺としてもどうすればいいかわからなかった。
「そうだ! 今日は久しぶりに駅前のカフェ行こうよ。色々聞きたいこともあるし……うん! そうしよう!」
そう言うと佐田は宮野の手をひいてそのまま歩きだしてしまった。
宮野は一瞬、振り返って申し訳なさそうに俺のことを見た。
俺は引き止めることもできず、ただ、呆然と二人のことを見ていた。
結局、そのまま二人の後ろ姿は小さくなっていってしまったのだった。
「……いいなぁ。岸谷」
と、ふいに隣から、瀬名の羨ましそうな声が聞こえてきた。
「何が?」
「え? だって、あんな可愛い子と知り合いだったんだろう? 羨ましすぎるだろ……」
そういって、恨めしそうにそう言う瀬名。
まぁ……俺があの二人のことを、割りと嫌いであるということを除けば、確かに美少女と知り合いという事実は変わらないの……かもしれない。