踏み込まない話
そして、瀬名との一件があった後も、宮野の対応は変わらなかった。
校門の前で待つことはなくなったが、今度は交差点で待つようになった。
おかげで、宮野がいつから待っているのかはわからなくなってしまった。
そして、瀬名が言っていた宮野が何か悩んでいるのではないかということ……無駄に俺はそれが気になってしまった。
そもそも、なぜ俺が気にしなくてはいけないのかは謎だが……瀬名の言うとおり、宮野が俺を待つ理由……というか、俺のもとに毎日やってくる理由がわからなかった。
そして、その日も宮野は交差点で待っていた。
俺が来るのを確認すると、宮野が少し寂しい笑顔で俺を見る。
哀れんでいる……ような表情には見えない。
どこか物憂げな……疲れてしまっている表情に見える。
「……お前、何か悩んでいるの?」
俺は率直にそう訊ねてみた。
宮野は目を丸くして俺を見る。そして、小さく笑った。
「……なんだ。悩んでないのか」
「フフッ……あ……ごめん。その……雅哉君がそんなこと言ってくるのは、意外だったから……」
……俺だって好きで聞いているわけではない。
宮野のことを許したつもりもないし、仮にコイツが何か悩んでいても、俺には関係ないことだ。
「……で、悩んでるの?」
俺がそう訊ねると、宮野はそれまでと同じように困り顔で俺を見る。
「……ううん。別に悩みなんてないよ。それに……」
「それに?」
宮野は何か言おうとしていたようだったが……やめてしまった。
結局、宮野が何を言いたかったのは理解できなかった。
でも、俺にもなんとなく瀬名が言ったことは理解できた。
きっと、宮野は悩んでいる。でも、その悩みを俺に話そうとはしない……
そして、俺も話そうとしないのならば、それ以上深く聞こうともしないことにしたのだった。